第23話 僕は恋ができない。

 紅葉色づく通学路、月島は日向のもとに駆け寄る。


「日向さん、おはよう」


「うん。おはよう」


 二人は並んで、朝の閑散とした通学路を歩いていく。


「何かめずらしいね。日向さんがこの道使っているの」


「今日初めてこっちから来てみたの。こっちの方が景色がいいんだね」


「あと、体調は大丈夫そう」


「うん。すごく元気。・・・でも、ちょっと怖いかも。学校行くの久しぶだし・・・。それでも、なんだか分からないけど大丈夫な気がするの」


「うん。きっと大丈夫」


 二人は、恥ずかしいのか少し気まずそうに、通学路を歩いていく。それでも、日向は月島と歩くこの道を幸せに感じていた。それこそ、日向は、高校生活で誰かと一緒に登校したことがなかったのだから。


 しばらくして、日向が沈黙を破る。


「そういえば、まだ返事をしてなかったね」


「返事って?」


「もしかして、覚えてない?『好き』だって言ってくれたこと」


「覚えてるけど。今じゃなくても」


「こういうのは、早いうちにイエスかノーで答えておくべきなんだよ」


「まぁ、そうだけど・・・」


「それじゃあ」


 彼女はそういうと、少し小走りで走った後、立ち止まった。そして、振り返って一呼吸置く。


 月島は、その様子を見て、息をのむ。覚悟はできている。


「ごめんなさい」


「えええ・・・」


 月島の人生初めての告白は、あっけなく散ってしまった。でも、当たり前だ。日向璃子は、誰もが羨む美少女で、おまけに性格まで良い。当然なのだ。


「でもでも、気持ちはすごく嬉しかったよ。だけど、私には目の前に達成しないといけない目標があるの。だから、今はそれに集中する」


「うん。それが良いと思うよ。僕も応援する」


「ほんと、ごめんね」


 どこか申し訳なさそうな顔を見せる日向に、月島は何気なく提案をしてみた。


「じゃあ、友達になってよ」


 思ってもいなかっただろう言葉に、日向はその歩みを止めた。


「えっ?」


 不意を突かれた日向に対して、少し先に進んでいた月島は彼女の方へ振り返り、微笑みながら尋ねた。


「もしかして、嫌だったりする?」


「ううん。もちろん。でもさぁ、友達って、友達になろうって言ってなるものじゃないよ」


 日向はそう笑顔で答えた後、少し駆けるように月島の横へ向かい、二人は再び歩き始めた。


「そういわれれば、そうだね。友達あんまりいないからわからないや」


「ふふっ、ほんとに面白い。だから、そういう意味では、これからもよろしくね」


「うん。よろしく」


 二人は自分たちの会話が変だったのか、お腹を抱えるようにして笑いだす。

 こうして二人は、二人一緒の、初めての登校を果たした。


 ◇◇◇


 通学路、改めて色づく景色を見渡すと、この半年間があっと言う間に過ぎてしまったように感じる。


 僕は恋ができない。


 結局、この事実は、時間が経っても変わることはなかった。それでも、彼女と出会う前の僕と今の僕は確かに何かが変わった。

「早く結婚した方が良いんじゃない」

 こんな言葉はところかまわず聞かれる。この質問に対する世間の答えはイエスだろう。だが、そんな一般論は本当に当たり前のことだろうか。

 人は、それぞれ複雑な背景を持って成長する。したがって、そのような一般論を疑問に思う事もまた当たり前なのだ。少なくても僕にとってはそうである。だからこそ自分の中の信念を貫いてきた。

 一方で、世間の言う当たり前というものにどこか憧れていた部分のあった。だから、その代表格のネットニュースというものを今も毎日見ているのだろう。

 そういう意味で結局、僕たちは当たり前の中で暮らしていくためには、自分の中の何かを変えなくてはならないのだと思う。それでも、きっと僕たちは大丈夫だという確信がある。少しずつ変わっていく彼女が、変わらずに隣にいてくれる限り。

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