第22話 色づく紅葉
今まで感じたことがないやわらかい感触の上に自分の頭が乗っていることに違和感を感じ、月島は意識を取り戻した。眩しさを感じ、眉間にしわをやり、瞼を開けようとすると、聞いたことのある可愛らしい声が聞こえてくる。
「・・・くん、・・・月島くん。月島君」
月島はそんな可愛らしい声に答えるように目を開けた。目を開けたその先には、見たことのある可愛らしい顔があった。
「月島君。大丈夫?」
日向が心配そうに月島に声を掛けると、不思議そうに月島が日向に尋ねた。
「ここは?」
「病院。病院だよ。月島君。急に倒れたんだよ。覚えてない?」
月島は日向の言葉を聞いて、段々と記憶を呼び起こしていく。それと同時に今の自分の状況も段々と把握し始めた。そして、月島は、今自分の頭が彼女の太ももの上にあるこの状況、いわいる膝枕という状態にあることに気づき、瞬時に上体を起こした。
「大丈夫月島君」
「うん、大丈夫。それよりどういう状況」
「そういう状況って?」
「何で僕が日向さんの・・・その・・・、寝ていたのかっていうこと?」
「あぁ、ベットよりもこっちの方が月島くんの回復が早いと思って・・・。もしかして、嫌だった?」
心配そうに尋ねた日向に対して、月島は少し赤くなった顔を日向から逸らして答えた。
「べ、別に嫌ではないけど」
「なら、良かった」
日向はそう言って少し笑みをこぼした。
「ねぇ、月島くん。体の方は大丈夫。もしかして例の症状?」
「いや、違うと思う。多分、昨日寝てなかったからそのせいだと思う。今は大丈夫」
「はぁ~。なら良かった。もう、月島くん無茶しすぎだよ」
「心配かけてごめんね」
「本当だよ・・・。なんでそんなに無理しちゃうかな~」
「それは・・・、君に会いたかったから。ちょっと寝ないことなんて無理でも何でもないよ」
日向は、そんな月島のことば聞いて、恥ずかしそうに俯いた。
「やっぱり月島くんは変だよ」
「えっ?」
不思議そうな表情をみせる月島に対し、日向は少し呆れて月島に説明する。
「だって、そんなこと無自覚で言っちゃうなんて・・・やっぱり変だよ」
すこし恥ずかしそうに説明した日向を他所に、まだ不思議そうにしていた月島であったが、自分の言った言葉を思い出し、客観的にそのことを考えると、段々と恥ずかしさが込み上げてきた。
月島は、顔を赤らめ、黙り込んだ。
日向は、そんな月島の様子を面白おかしく見つめた。そして、追い打ちをかけるようにソファに片手を置き、隣に座る月島に顔を少し近づけた。
急に顔を近づけてきた日向に横を向いて反応した月島の視界の彼女は真剣な顔をしていた。
「ねぇ、屋上で月島君は、何をしてくれようとしたの?」
そう言った後、日向はゆっくりと目を閉じた。突然の彼女の言葉と行動に少し動揺しつつも、月島はゆっくり彼女の顔に自分を顔を近づけた。
その時、病室の扉がガタッと音を立て、開いた。
どうやら、見回りの看護師さんだったようだ。
「あら、お取込み中にごめんなさい」
「いや、そういうのじゃないですから」
月島は、必死に反論するが、看護師はもはや聞く耳を立てていない。
「では、ごゆっくり~」
そういって、看護師さんは扉を閉めて病室を後にした。
月島と日向は、お互いに気まずそうに顔をそらした。
一瞬の沈黙の後、月島が少し恥ずかしそうにつぶやく。
「十二時過ぎてるし、学校に戻るね」
「・・・うん。またね」
日向もまた恥ずかしそうに、病室を後にしようとする月島に小さく手を振った。月島もそれに応えるように小さく手を振って、病室を後にした。
学校までの帰り道、月島は学校を抜け出している罪悪感を少し感じながらも、そんなことは頭の片隅に少しあるくらいで、今は何か大きなことをしたような清々しさにあふれていた。
◇◇◇
月島は、学校に戻ると、最初に職員室に立ち寄った。少しは怒られると思ったが、何事もなかった。担任の先生の話ぶりから、保健室の先生が事実を少し捻じ曲げて、それっぽく事情を話してくれていたようだ。
大人というのは本当にずるい生き物だとつくづく思う。今回ばかりはいい意味でだが。
拍子抜けのまま、教室の扉を開けると、案の定というべきなのか、物珍しい視線を浴びる。
一方で、その中で、佐藤が大きく手を振っている。また、その横で、真梨花も少し恥ずかしそうに手を振る。どうやら、そろそろ昼休みが終わるというころだったらしい。
月島が席に戻ると、早速佐藤が月島に絡みにいく。
「おー早かったな。大丈夫だったか」
「うん。おかげさまで」
清々しい顔でそう答えた月島を見て、佐藤は手をグーにした。そして、思い出したように続けて月島に尋ねた。
「そういえば、先生に何か言われたか?俺、めちゃくちゃ怒られたぞ。」
月島は、今回ばかりは助けられた立場なので申し訳ないと思いながらも、一から説明するのは面倒くさかったため、適当にそれっぽく答えた。
「トイレって言ったら何とかなった」
「何で俺だけダメなんだよー」
「普段の信用の差じゃないかな。でも、ありがとう。おかげで助かったよ。後、真梨花も」
月島は、笑ってそう答えた。
真梨花は、笑顔でうなずく。佐藤は、その様子を見てニヤリとする。
「その様子だと、うまくいったみたいだな」
「うまくいったって何のこと?」
「またまた~、愛の告白だろ」
佐藤の冗談めいた言葉を聞いて、真梨花は飲んでいたお茶を吹き出しそうになって、せき込む。
「大丈夫」
月島は、心配そうに真梨花に駆け寄る。
「う、うん。大丈夫。そ、それより愛の告白ってどういうこと」
「いや、佐藤の冗談だって」
月島は必至に取り繕う。
しかし、佐藤は真面目な顔で突っ込む。
「いや、俺は真面目に言ってたんだけど」
「光、どっちのなの」
真梨花は、険しい表情で月島に問う。
「いや、だ、だから佐藤の冗談、冗談だって・・」
「そうだよね。佐藤くん、あんまり変なこと言わないでよね。」
真梨花は、佐藤を睨み付ける。
「いや、あそこまで必死になってることは絶対そうだって。そもそも、ここでそうとは言えないでしょ」
「でも、本人は違うって言ってるじゃん」
「もしかして、南さんは月島のこと好きなの」
月島は、少し頬を赤らめるも、強く反論する。
「ち、違うわよ。適当なこと言わないでよ」
「いやいや~、アニメに良くいるツンデレヒロインそのものだよ。でも、ツンデレヒロインは勝率低いんだよな~」
「適当なこと言わないでよ。それより、勝率が低いってどういうこと」
相変わらず、二人は仲良くやっているだ。
一方で、月島は気になることがあった。
―告白の返事をもらっていない。
◇◇◇
一週間後の月曜日の朝、月島はいつものように起きて、いつものように少し早めに家を出る。ただ、ひとついつもとは違うことがあった。それは自転車がパンクして、修理にでているため、今日は電車と徒歩で学校まで向かわなければならなかった。
月島は、高校の最寄り駅に着き、公園の中から学校へ向かっていく。
通学路、あいにくの雨であったが、なぜだかいつものように嫌な感じはしなかった。
季節はだんだんと秋模様となり、一週間前まで緑色だった草木は休日を挟んで所々紅葉が見え始めていた。
あれから一週間、彼女には合っていない。お見舞いに行くほどの重症ではなかったし、いざ会おうとするとなぜか気恥ずかしかった。
しばらく歩いていくと、通学路の途中、きれいに色づいた紅葉の下で木々を見渡す美少女の顔が彼女の傘から垣間見えていた。
月島は、その少女の顔をはっきりと見ることができなかったが、すぐに誰であるかわかった、わからないはずがなかった。その立ち振る舞い、オーラ、そして自分の感覚が彼女であるか確信していた。
月島は叫んだ。
「日向さん」
彼女は月島の言葉を聞いて、大きく手を振って返した。
「月島くん」
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