第6話 この二人が特別変なんだって
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「あら? どうしてこうなってますのぉ?」
実家の事情で暫く休学していて、今日王立学園に復学したエリカが待っていたのは見知った顔だった。
「まぁまぁ! エリカさん同級生だったのですね! 嬉しいです!」
リンゼは素直に再会を喜び、セリンは少し戸惑いながらエリカと顔を合わせた。
「あ、あら。エリカさま?お久しぶりですわ。ほほほ!」
(久しぶりのほほほ!)
リンゼはセリンの反応に首を傾げたがエリカの方に意識を引き戻した。
「お、お二人が同学年なんて、聞いてませんでしたわよ? 少なくともリンゼさんは中等部だとばかり思いこんでました。」
隣でセリンがうんうんと頷いている。そして話を振った。
「それより、そちらのお二人もお知り合いだったのね。知りませんでした。」
「そ、そうなんですよぉ。先般ある機会があってお友達になったんですのよ?。ね? リンゼさん?」
エリカ達との関係に至る切っ掛けの話は伏せておくように、アノワンダ家の方から申入れがあり、快く受けた形になっているリンゼだったが、機先を制してエリカに微妙な圧力をかけられるリンゼだった。しかし、他の二人は別の事に気を取られている様だった。
「セリン様は確か十四歳でしたわよね。高等部編入なんて、優秀ですわ。わたくしはもうすぐ十六になるというのに。」
「いやいや。この二人が特別変なんだって。俺なんかもう十八だぞ?気に病む必要はないぞ!断じて!」
「そうだよね~。」
いつの間にかエリカに挨拶しようと集まって来たクラスメートにフォローされていた。学園の学年における年齢基準は無い。実力次第の学年に所属することになる。高等部進学時の年齢イメージとして十五歳というものがあるだけだ。当然二十歳過ぎた者も僅かではあるが高等部に在籍している。
エリカは正直戸惑っていた。エリカは勿論セリンが王女様であることは知っていた。学園では身分は関係ないように振る舞うことが推奨されているし、それを実践できるよう基本、名前だけが公表されている。普通に学園生活をし、突っ込んで詮索しなければ、誰がどういった身分なのかは分かり難くなっている。
まあ、しかし、最初からお互いに知っている場合は多々ある。王女と侯爵令嬢では面識があっても不思議ではないだろう。
エリカのセリンの印象は楚々とした大人しい印象だったし、いつも笑顔を張り付けた様子がちょっと苦手だった。
二人ともまだ社交前の年齢だったし、会う機会は殆ど無かったけれども、エリカにとって王女様は雲の上の人だったし、何よりエリカは、見た目や言葉遣いが誰よりもご令嬢な癖に、ご令嬢同士の付き合いができない性格だった。
だからリンゼがセリンをお転婆呼ばわりした時はハテナマークを浮かべたものである。
セリンは正直戸惑っていた。この年上の侯爵令嬢は豪奢な金髪を流し姿勢も良く、凛とした態度は令嬢の手本と見做されることが多かった。並べば王女である自分の方が地味に見えるだろう。
その孤高の振る舞いは一部では有名で、事実付き合いのあるご令嬢方は一握りと聞いていた。
気高く冷たい印象。何度か顔合わせをしたことがあるが、セリンもまたエリカに対しては苦手意識を持っていた。
リンゼは色々と無頓着であるし、セリンやエリカの身分についても知らない様子であり、知っていてもその態度がかあることはないだろう。とは言え、ぎこちなさが出てしまったのは否めない。
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授業が終わった後、三人はお茶をしていた。お互いに微妙な秘密を抱えた三人であったが、セリンが普段の余所行きの態度を捨てたことが切っ掛けで、少し仲良くなった気がした。
「リンゼさんがセリン様のことをお転婆仲間だとかお仰るので、どういうことかと考えてましたの。なんとなく分かるような気がしましてよ?」
エリカが話を振ると、早々に普段の楚々とした雰囲気を捨てたセリンは、リンゼを軽く睨みながら言葉を返した。
「わたしのことはセリンと呼んで下さいね。ところでリンゼ?わたしのことをお転婆だと紹介したの?」
お茶を含んでいたリンゼは突然に矛先を向けられて吹きそうになった。
「むっ・・ え~と。他に思い当たる言葉がなくって? でも、エリカさんも同じくらいにはお転婆だと思いますよ?」
「ふふ。わたくしは少し年上ですけど、エリカと呼んで下さい。セリン・・の事は以前から知ってましたけど、挨拶程度でしたものね。こうしてお話できたのは良かった。同年代のお友達は少なかったので嬉しいわ。」
「うふふ。わたしもエリカと親しくできるのは楽しみ。これまでツンとしたお嬢様のイメージが強かったから敬遠してたかも。人ってお話してみないと分からないものね。」
セリンが言うと、エリカも頷きながら返した。
「わたくしも同意です。セリンの事は遠い存在に思えてましたから。これもリンゼのおかげですわ。リンゼに出会って新しい世界が広がるようです!」
「え~? あたしはなにもしてませんよぉ。でも、お転婆仲間が増えるのは純粋に嬉しいかな? 今度三人でどこか遊びに行きましょう。三人だともっと行動範囲を広げられると思いますよ?」
これにはセリンが喰いついた。
「え。ええ! それは良いわね! 馬で遠出なんてどうかしら!」
「それは良いですね!きっと楽しいですわ!」
「もし、それが実現したら、あたしは相乗りさせて下さいね。小さくて馬には乗れないの。」
リンゼはそう言ったが、正直自分で走った方が速いので、これまで乗馬の必要が無かったのだ。足が届きそうにないのも事実だが。
「あら。そうだったの。もしその時はわたしの馬に一緒に乗りましょうね。」
セリンが嬉しそうに請け合った。
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