第2話 寝取り野郎が俺に勝てるわけないのだ、ドンマイ
何かを割るような感覚があったが防御の魔法か何かを粉砕したのだろう、さすがフタキワパンチだぜ。
リバルはというとカウンター気味にものまねパンチが顔面に入り、潰されたカエルみたいな無様な鳴き声を上げている。
「ふんギャロっ……?!」
何が起きたかわからないと言った様子だが、見たことない技だからそらそうなるよね。
―――“ものまね師”は本来『動きや行動を再現するスキル』で、この世界ではこれは芸をして日銭を稼ぐ人間が使うスキルとして軽視されている。だがその模倣範囲は結構広い。
『この世界にある』技を模倣するには、“ものまね”する側もそれを成立させるだけの同等の技量やスペックが必要なので現実的ではないが、俺が転生前にみてきたアニメ漫画ゲームのキャラクターの必殺技のような『元々この世界になかった』技を“ものまね”しようとした場合にはそういった前提条件を全て無視して技を再現することができる。
恐らく仕様の穴というかデバッグミスのようなものだと思うが、これは魔力5しかない短所を補って余りあるものだ。
勿論ものまねも火を出したり雷を起こしたりみたいなそこにないものを発生させるような再現はできない等細かい制約があるが、それでも色々な技を再現することは可能なのである。
ちなみに今のフタキワパンチは一度のパンチで瞬間的に複数の打撃を与える技で“サムライブレード卍(まんじ)”というアニメ化もした剣客バトル漫画に出てくる右太郎というキャラクターの技で、一昔前にアニメの切り抜きがネットミームなってMADのネタにされまくっていたりする。試しに使ってみたがいい感じに再現されていて、効果ははばつぐんだ!。
「ぱ、ぱーんにゃっ……あひゃ……」
リバルは受けたダメージが大きいのか情けない声を上げてフラフラとしているが、周囲のギャラリーも身動きできずに動きを止めている。
「き、きひゃま~!!ひゅるひゃん!!」
よろめきながら数歩さがり、踏みとどまるリバル。目がぐるぐる回っているのと呂律も回っておらず立つだけで精いっぱいな様子だが……ここからがハイライトなんだぜ、Are you Ready?俺は……出来てるよ!
「松・花・堂!しょう・かっ・どう!」
そんな言葉を口ずさみながら、リバルに肉薄した状態から8の字を描くように上体を動かし、体重を乗せたパンチで右から左から殴り続ける。これは前世で愛読していたボクシング漫画「松花堂の365歩」で主人公の松花堂三六五(しょうかどうさむい)が使う必殺技“ショウカドウロール”だが、これも今の俺なら完璧以上に再現が出来る。
顔面を余すことなくボコボコに殴りつづけると、一発が入るごとにいい感じの打撃音が響くので周囲の皆もフリーズしてその光景をみている。
「おぼぉっ、ひでぶっ、げばぁっ、ひぎぃっ、いぢゃいっ、やじゃぁっ、ゆんやぁーっ!」
リズムに乗って容赦なく殴り続けてしばらく、最後には情けない悲鳴を上げてリバルは崩れ落ちた……試合終了のゴングはいらなかったな。
「残念、俺の勝ち……ってね。なんで負けたか今度会う時までに考えといてくださいよ。
あー、あとそこのヴァネッサ嬢。
この国では一時期アホみたいに冤罪や婚約破棄が勃発したので冤罪を吹っかけるのがこの国では重罪なのはご存じだとは思いますが―――例え王族やその婚約者であっても、冤罪吹っかけをした以上、ドーブルス王子が冤罪だと判明した時には相応の処罰が下ると思いますよ」
リバルがあっけなく打倒されたのを呆然とみていたヴァネッサ嬢に声をかけると、ハッとした様子の後で俺を睨みつけてくる。
「――――ふざけないで!よくもリバル様を……!!お父様にいいつけてやるわ、覚えたわよカストル・フェンバッハ!!」
「おぉ、こわいこわい。……さて、それじゃ俺達は失礼します」
そう言ってから地面に尻もちをついたままのドーブルス王子に手を貸して立たせて歩かせようとしたが、フラフラの様子なので肩を貸しながらその場を後にする。
……ファーッ、やっちまったかな~~~~~!!
一時のテンションで動くのってアホのやる事だよな~~~!!!
……でも無実の人間を放っておくのも目覚め悪いしなぁ、しょうがないよ、しょうがない。あの状況で見て見ぬ振りしたら後味悪くて後悔したもん、好奇心は猫をも殺すっていうけど観に行って関わっちゃった時点でもうこうなる運命だったんだと思う事にしよう。
……一応この後リバル側がどう出てきてもそれなりに対応はできると思うけど……。
「すまない……巻き込んでしまって本当にすまない……」
肩を貸しているドーブルスが嗚咽している。沈んでしまってすっかりすまないさんになっているけど、別に気にしなくてもいいってばよ。
……まぁ、婚約者を寝取られた挙句に冤罪で婚約破棄までトリプルコンボだドン!されたんだから哀しかろうて、そういう時は泣いたっていいんだ。
……実を言うとそんなドーブルスに親近感がわいた、というのもある。俺も兄弟に婚約者を奪われたばかりなのでどうしても他人事に思えなかったんだよなぁ……。
「構いませんよ、好きでやった事です」
そんな風に王子に声かけしながら歩き、部屋につくと促されるままに中に入った。
さすが王子様だけあって俺が暮らしている寮の4人住みなタコ部屋とは違って1人部屋、しかも部屋そのものもタコ部屋5、6部屋分くらいあった。わぁ〜、タコ部屋よりもずっと広い!
という驚きはさておき、部屋のソファに王子を腰かけさせる。
「迷惑をかけた、フェンバッハ殿。そして……遅くなったが助けてくれて、ありがとう」
目尻に涙を浮かべながらも、気丈に笑顔を浮かべて労いと謝意を伝えてくる王子。わー、これが乙女ゲーなら確実にイベントスチルがあるわこれ。さすがイケメンというだけあって乙女なら一発でコロりと恋に落ちるであろうプリンスなスマイル!だが残念、俺は男なんだよねー!
「感謝の極みです。あと私は廃嫡されたので“フェンバッハ殿”なんて言われる身分ではありませんよ。……それでは、これで失礼します」
さて、俺自身の保身のためとあとこのキラキラな王子様の無罪を晴らしてやるためにちょっと冤罪について色々と調べて回らなきゃなと思いながら部屋を後にしようとしたところで、王子に呼び止められた。
「ま、待ってくれフェンバッハ殿!」
背後からの声に振り返ると、王子が神妙そうな面持ちで聞いてきた。
「貴公が先ほど見せた技、あれは―――」
あぁ、“フタキワパンチ”と“ショウカドウロール”か。……この世界には存在しない概念、異世界のマンガやアニメの技……だから面食らうよなぁ。どう説明しようかと悩んでいたところで、恐る恐ると王子が聞いてきた。
「もしかして“サムライブレード卍(まんじ)のフタキワパンチ”と、“松花堂の365歩のショウカドウロール”では?」
「えっ?」
「えっ?」
いきなり技の元ネタを指摘されて思わず驚く俺の声に王子も驚きの声で返してくる。なんでこの王子様、俺の技の元ネタ知ってるの??ん、んん~~~~??
「……あ、その顔やっぱり!え、マジ?マジで~っ!?もしかしてと思ったけど君も転生者!?!?」
先ほどまでのキラキラな王子様然とした態度とはうって変わり、いきなり人懐っこい笑顔を浮かべる王子様。お、おぉう?!おぉぉぉう?!君“も”転生者っていったのかこの王子様。
「うわーっ、嬉しい!俺以外にも転生者が居たなんて!!」
そういって尻尾があったらブンブン振ってそうな勢いで喜びながら俺の手を取り、つないだ手を上下に大きく振る王子様。
「わあわあ、もー、それならそうと早く言ってくれよな~っ。あ、敬語とかいらないから!お茶飲む?飲むよね?ちょっと待ってて淹れるから!!ゆっくりしていってね!!」
……お、おぉう。先ほどまでの哀しみがどこかへ行ったのか、嬉しそうにお茶の準備を始めるキラキラの王子様。……どうやら俺と同じ転生者らしいゾ。
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