第3話 ねぇ今どんな気持ち?どんな気持ち?


 一国の王子にお茶を淹れさせるのもどうかと思ったが本人がウッキウキでお茶会の準備をしているので促されるままに席に座り、淹れられた茶を飲む。……んまい!テーレッテレー!お茶の良し悪しは詳しくないけど、良い茶葉で上手に淹れられているのがわかる。

 お洒落なお茶屋で出されるのと遜色のないお味、流石王子様見事な御点前ですこと。


 そこからお互いの前世についての事について話すことになった。

 俺の前世はというと本名は有馬勝利(ありまかつとし)、生前はついてない人生を送っていた。幼馴染の彼女には浮気をされ、両親は投資詐欺に遭って家を借金のカタに取られてと散々な目にあって疲労困憊な中、俺は事故で死んで異世界転生をしたのだ。そしてそんな話をしたらドーブルスは感情移入したのか号泣している……どうも素の性格は情緒豊かなようだ。


「うぉぉぉんっ、それは大変な目にあったんだね、有馬君……ウッウッ」


「過ぎた事だよ、おかげさまでというか俺はこっちの世界で生きている。

 両親も俺の保険金でなんとか持ち直したんじゃないかな。これでまた詐欺にあうようならそれこそ俺はもう知らん」


 苦笑しながらも今度はドーブルスに前世の事を聞くと、少し照れたように笑いながら改めての自己紹介がはじまった。


「あ、俺の前世は宝塚啓太郎っって言って、えっと――――」


 そうして話し始めた王子の過去はサッカーが好きでアニメや漫画もみていたごく平凡な高校生だったが、道路に飛び出した子供を庇おうとして咄嗟に動いたら子供は助かったが自分は死んでしまい、それを可哀想に思った神様にこの世界に異世界転生させられたらしい。……君、前世から良い子だったのか。


「今更だけど敬語とか使ってなくてごめん。有馬君って年上?」


「呼び方に関してはこの世界の名前の方が混乱しなくていいと思う、生前の歳もそう変わらないからそこは気にしないでくれていいよ。

 でも人前では臣下に対しての態度で接してくれよな……ほら、一国の王子が廃嫡貴族に敬語なんて使ってたら何事かと思われるし、俺も人前では君に敬語を使わせてもらうから」


 そんな俺の言葉になるほど~そうだね!と手を打って頷く宝塚君……じゃなかったドーブルス。こうして素の様子に接してみるとまだまだ年相応の子供にしかみえない。

 あと普通に話している間、頭の上には『○』がピコンピコンと浮かんでいた……チートを発動させるつもりはなかったものの対面して話をしているので俺のチートが反応してしまっていて、それをみる限りどうも人に嘘がつけないタイプのようだ。浮気や女遊びから正反対にいる奴だな……。


 話した感じも明るく元気で、乙女ゲーとかアイドルゲーに出てきそうなキラッキラのイケメンフェイスに反して犬チックに人懐っこい奴だった。なんかパッケージとかキービジュアルのセンターにいそうな見た目なんだけどね……身内にだけはそういった顔を見せるのか、それとも同じ異世界転生者仲間だからだろうかはまだわからないけど。


 この王子の事は中等部の頃はなんでもこなせる“完璧王子”といって女子が黄色い声をあげているのを見たことがあるくらいだけど、……王族というのも大変なんだろうなと察するものがある。


 ……うむ、改めて冤罪吹っかけられている所を助けれてよかった。縁は異なもの味なもの……ってね、まぁ男女じゃないけど。

 冤罪で嵌められたのを正確に理解して婚約者の不義を見抜いているのが俺しかいない以上、俺がこやつを守護(まも)らねばという気持ちになる……


―――よーし、浮気女と寝取り兄、いっちょシメるか!!!!!!!!!!!!!!


 真実を見抜く○×チートを駆使すれば冤罪を晴らすのもそう難しくはないだろう、袖振り合うのも多少の縁というしここは俺が人肌ぬいでしんぜよう。


「あ、それでさっきの技なんだけどあれってアニメとか漫画の技だよね!?俺漫画のコミックス持ってたからすぐわかったよ!」


 キラキラした目でみてくるドーブルスに、俺の“ものまね師”についてわかる範囲で簡単に説明をすると大興奮の様子でテンションがあがっていた。


「じゃあじゃあ剣があったらディーノの冒険譚のアークスラッシュとかボルトブレイカーみたいなのもいける?!」


「剣を逆手に構えて斬る技だからアークスラッシュはいける。けど落雷を剣に落とすことができないからボルトブレイカーは無理だなぁ」


「え~~~っ、アークスラッシュ使えるとかめっちゃカッコいいじゃんスッゲー!!」


 スポーツ選手を前にした子供のような目で尊敬のまなざしを向けてくるドーブルス……チワワとかパピヨンとかの犬みたい。


「じゃあ剣今度用意するから色々見せてよお願いカストルさん!」


「さんをつけるなデコ助野ろ……じゃなかった、さんはいらん。それじゃ今度剣渡して貰えれば演習場でやってみるよ」


 キャッキャと喜ぶドーブルスを見て微笑ましい気持ちになりながらその日は部屋を後にした。……俺が部屋に戻ろうとすると泊まっていってよぉお泊り男子会しようよぉと目をウルウルさせながらしがみついてきたが、いきなり王子の部屋に泊まり込んでたらまた話がややこしくなりそうだから固辞した。……いやぁ~、儀式から廃嫡宣言されて婚約破棄されてからの王子様の冤罪とか濃い一日だったね!!


 そして次の日、学園の廊下を歩いていると聞き馴染んだ声に呼び止められた。


「よぉゴミ兄貴。相変わらずシケた面してるなぁ!」


 俺とよく似た顔をした双子の弟ポルクスで、その隣にはアンジェラもいる。


「ようポルクス。何の用だ」


「あぁ~ン?廃嫡されたカスがこの俺を呼び捨てとは生意気じゃね~のォ~?ポ・ル・ク・ス・様、だろうがよっ!」


「はいはいポルクス様何の用でございますか」


 面倒くさいのに絡まれたなという程度の気持ちしか湧かないので適当にあしらうかと素直に従っただけだが、ご満悦といった様子でニタニタ笑っている。


「昨日はお楽しみでしたってコトを教えてやろうと思ってな!こんな良い女に手を出さなかったなんて男として情けない奴だぜ」


 そんなポルクスの言葉に顔を赤くしているアンジェラ。嘘……手を出すの速すぎ!サルかな?……というか別にそれならそれでいいけど人のいる往来でする話じゃないよな、わかれよー。

 アンジェラと清い交際をしてたのは俺なりにアンジェラの事を考えて接してきたからなので、あっさり手を出されたコトやそれ受け入れられたことについては思う所はあるが、こればっかりは廃嫡宣言されてる以上どうしようもない。


「魔力たったの5のゴミで!家からは捨てられて!女も奪われた惨めで無様な敗北者さんよぉ、ねぇ今どんな気持ちだ?どんな気持ちだ?」


 ニヤニヤしながらウザ絡みをされるが、なんでわざわざ俺に絡んでくるんだこいつ……。一応双子の弟だし俺の方がお兄ちゃんなので揉めたいわけじゃないんだけどなぁ。

 うーん、ぶっ飛ばすのは簡単だけどその後が面倒そうだしなぁ、と対応に、悩んでいたところでまた別の声が飛んできた。


「フェンバッハ殿!ここにいたのか、探したぞ」


 ざわめきを尻目に柔らかな笑顔を浮かべて歩いてくるのはドーブルスだった。昨日の婚約破棄の騒ぎはまだ知れ渡っていないのだろうか?ドーブルスには相変わらず黄色い声が飛んでいる。


「ド、ドーブルス王子?!」


 ポルクスがキョドっている。突然王子に声をかけられたので驚くのも無理はない。だが王子に声をかけられたことで有頂天になり笑みを浮かべているが、そこでポルクスと俺を視たドーブルスが紛らわしい間違いに気づいたようだ。


「……おっとすまない、紛らわしい言い方をしてしまったようだ。私はカストル、貴公を探していたのだ」


 ポルクスは人のいる往来で注目を受ける中、王子に人違い扱いされたことで赤っ恥に顔を赤くしている。


「―――これを貴公に」


 そう言ってドーブルスが俺に手渡してきたのは、一振りの剣だった。鞘は白塗りに金の装飾を施され、一目で並々ならぬ名剣だというのがわかる。


「私が持ちうる中で最良の剣だ。どうかこれを受け取ってほしい」


 ……あぁ、なるほど!剣を使ったものまね技をみてみたいって言っていたもんな、行動が早い!

 けどいいのか俺にホイホイ渡しちゃって。俺は廃嫡されたプータローなんだぜ?


「ドーブルス王子、お気持ちは嬉しく思いますがこのような名剣を受け取るわけにはまいりません」


 そう、別にそれなりの剣で技の再現は出来るので重臣に下賜するようなこんな凄いものを渡されても逆に困る。武器屋で雑に樽に突っ込まれて売ってるような剣でいいのだ。


「そうですドーブルス王子!こいつは魔力たったの5……ゴミです!!カストルのカスはカスのカス!!フェンバッハ家を追放されるカスにそんな素晴らしい剣を渡すなど……それにフェンバッハの跡継ぎはこの私です!そういう話ならこの私に―――」


 すかさずというかポルクスが話に割り込んでくる。ド-ブルスのもつ剣を食い入るように見ているが、もうすこしその物欲しそうな態度を表さないように隠せよと思わなくもない。まぁ昨日まで社交や公の場は俺が出ててこいつはそう言った事とは無縁で甘やかされて育ったから急には無理か……。


「すまないフェンバッハ殿。私はカストルと話をしているのだ」


 見る者の頬が染まるような優し気な笑顔だが、ハッキリと拒絶の態度を表すドーブルス。1度ならず2度までも眼中に無いという扱いをされて屈辱に震えているが相手は王子、言い返せるはずもない。……ねぇ今どんな気持ちって俺を煽ってきたけどそれブーメラン刺さってるぞポルクス、大丈夫かポルクス。

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