廃嫡された魔力5のゴミですが、婚約破棄されたスパダリ王子を助けたら懐かれて成り上がりが止まりません。

サドガワイツキ

第1話 魔力5のゴミですが、成り行きで寝取り野郎の顔面をぶちのめします


「魔力たったの5……ゴミめ。しかも“ものまね師”など下々民が芸をするのに使うような下賤なスキルではないか。貴様のような恥さらしは我が家の人間ではない!婚約もお前から双子の弟に変更するように申し入れる、貴様は廃嫡だ廃嫡ゥ!学園を卒業したらどこへなりともでていけ、追放だこの無能!!」


 ―――そんな風に父親がブチ切れて叫んでいる声が響く中で、俺はぼんやりと自分の事を振り返っていた。


 この国では中流以上の貴族は魔導学園に通うのがならわしだ。

 家格でいえば中の上程度のフェンバッハ家に産まれた俺、カストル・フェンバッハもその中の一人である。

 王立魔導学園中等部での3年間は何事もなく終わり、今期からは高等部に通う事になっていた。それに伴い高等部入学の儀として生徒は各家の当主同伴で学園に併設する神殿に招かれ、魔力の総量を図ると同時に儀式の一環で天からスキルを授かる……のだけど、そこで出た俺の結果は散々なものだったので親父殿の発狂しているのだ。

 一般的な貴族の平均魔力が100前後なので俺の魔力5というのは実際ゴミなのでそこは否定できない。ただ俺の持つスキル“ものまね師”は魔力を必要しないのと、スキルを授かったときに使い方や俺にできることを理解したことで他ならぬ“俺”が使う分には十分に強力すぎるチートスキルだという事を親父に説明したが……全く相手にされなかった。人の話を聞かない人だからな……。

 とまぁそんな風に親父は俺の計測結果にブチ切れ、顔を真っ赤にしながら罵声を喚き散らしていた。


「ギャハハハハ!兄貴だっせぇ!!魔力5とか生きてて恥ずかしくならねェの??俺の世の春がきたぜェーッ!家の事もアンジェラの事もあとは俺に任せてどこへなりとも失せな、この出がらしのゴミクズよ!」

 

 そんな風に俺の双子の弟のポルクスは親父と一緒になって俺を嘲り、散々にこき下ろして親父と共に去って行った。

 ポルクスの魔力は140、そして持っているスキルは“魔法剣士”。魔法と剣士の両方のスキルを覚えることができる希少なスキルだったからね、仕方ないね。

 俺の幼馴染で婚約者のアンジェラはどうかと言うとこれまた同様。


 「貴方の事は嫌いじゃないけど魔力5のゴミと一緒になるのは無理よ、将来性0だもの……お父様も婚約相手の変更を了承すると思うわ。それじゃさようならカストル、今後はあまり話しかけたり近寄ったりしないでね」


 秒で掌返しして俺から離れていった。一応アンジェラにも俺のスキルの特異性を説明したけれど、話半分で聞き流されてしまった。幼馴染で婚約者として10年以上一緒にいたのにあっさりと……とはいえポルクスも一緒だったんだからそうでもないのか。アンジェラからしたらポルクスも幼馴染なんだし、家同士の結びつきを考えたら俺でもポルクスでもどっちと一緒になっても変わらないもんなー。

 そう考えると魔力5のゴミと結婚するより高魔力レアスキル持ちのポルクスを選びたくなるのはわかる。


 ……しゃーない、切り替えていけ。人生まだまだこれから、前向きに生きていきゃなんとかなるだろ、タブンネ……多分ね。


 幸いにも学園卒業までの4年間は通わせてもらえるようなのでその間に今後の身の振り方を整えていけばよい。

 なんてそんな事を考えながら入学の儀の場を離れて歩いていたところで人だかりをみつけた。


「見損なったぞドーブルス!婚約者であるヴァネッサ嬢を傷つけ、不特定多数の女子に手を出していたなど……クズの所業!!兄として恥ずかしい!!」


 おっとこれは断罪劇ってやつかな?と人だかりを観に行くと、まさにその通りのご様子だった。

 ただ、殴り飛ばされたのか頬をはらして倒れ込んでいるのは悪役令嬢でも悪徳貴族でもなくキラキライケメンの王子様だった。中等部でも有名だったけど確かこの国の第五王子のドーブルスだ。くりくりの目にキラキラしたオーラ、ふわふわの髪と乙女ゲーの世界でスパダリでもやってそうなイケメン男子。俺みたいなそれなりーな貴族とはちがう本物の王子様で、ああいう奴が“主人公”って言うんだろう。

 そんなキラキラ王子が何で殴り飛ばされてるんだ?と思って周囲をよく見てみると、栗毛の美少女の肩を抱きながら第四王子のリバルが声高にギャアギャア叫んでいた。こっちのリバル王子も顔立ちは整ってはいるがキザでいやみったらしい奴で、男子からの評判の良くない奴だったな。


「酷いですわドーブルス様。わたくしというものがいるのに、他の娘を弄ぶだなんて……」


「待ってくれヴァネッサ、私はそんな事していない!誤解だ!!信じてくれ!!」


 ドーブルス王子は必死に弁解しているが、この状況だとそれは逆効果だぞ、と。周囲を取り囲んでいる衆目がヒソヒソと話しているがこの状況だとドーブルス側の分が悪い。

 ……うん、リバルに肩を抱かれているあの女の子にも見覚えがある。ヴァネッサ・ターリングラド。名門のお嬢様でドーブルス王子の婚約者だな?目尻に涙をためて庇護欲をそそるその姿は完璧で究極なヒロイン、婚約者に裏切られた悲劇の美少女、なんだけど……何か違うな、俺の勘が告げている。


 何を隠そうこの俺は異世界転生者なのだ。……前世、詐欺や裏切りで散々に人に騙されてから失意の中で事故死をしたからか、異世界転生にあたりひとつ、代わったチートを持っている。


―――問いかけると嘘か真実かがわかる


 言葉にする必要もなく、対象を視ながら心の中で質問をするとその頭上に○か×が浮かぶというものだ。このスキルの回答は全て真実で、質問を嘘で誤魔化すことができない強力なもの……勿論、これは俺にしか見えない。

 日常生活では使う場面もないものだったが、こういう状況だと―――キラキラな方の王子の冤罪がはれるかどうかなんだ、やって使ってみる価値、ありますぜ!ってね。


『ドーブルス王子、本当にそんな女遊びをしたり婚約者を裏切るような事をしたのか?』


 まずはドーブルス王子に心の中で質問すると


『×』


 という答えが返ってきた。お、キラキラしてるだけあってやっぱり無実じゃん。じゃあ次は詰問しているキザな方、YOUの番だよ。


『リバルくん、君さぁ冤罪でドーブルスを嵌めようとしてる?』


『○』


 リバル君、はいダウトー!頭上に輝く○印!!冤罪確定じゃん。リバルくん、ダメなんだよ……そういう冤罪は実にダメ……。というかリバル君とヴァネッサ嬢がなんだか親しげだな?これはもしかすると、と今度はヴァネッサ嬢に問いかけてみる。


『ヴァネッサ嬢、リバルと浮気してる?』


『○』


 うっわぁ~、浮気かぁ……一応キラキラ王子の方に非がないかも確認してみようか。何か理由があるかもしれないし?


『ヴァネッサ嬢、ドーブルス王子に何か酷い事されたり傷つけられるような事されたり何か落ち度ある?』


『×』


 oh...キラキラ王子カワイソカワイソネ……冤罪吹っかけられてNTR婚約破棄とか可哀想すぎる。もうちょっとこう、手心というか……。


「貴様に弄ばれたと主張する娘たちが何人も私の所に陳情に来ているのだぞ。貴様のような愚弟にヴァネッサ嬢は任せられん!父上には今回の件についてとヴァネッサ嬢との婚約も破棄するようにも上奏するからな!!」


 ……ひっでぇ兄貴、弟の婚約者を寝取って冤罪吹っかけるとか下種極まるじゃん。その弄ばれたって娘も仕込みなんでしょ?わかるよー。

 しかもこれ、今気づいたけど周囲の人間にも仕込みがいない?キラキラ王子を貶めるのが目的でしょ。

 あー、嫌なもんみちまったなぁ、と思ってため息を零していたところで、絶望の表情を浮かべながら周囲を見渡すドーブルスと目があった。……やめろ、捨てられた子犬みたいな哀しそうな目でみるな。

 ………自分が廃嫡を言い渡された矢先なのに人の厄介ごとに首を突っ込むなんて馬鹿げてるんだけどなぁ……馬鹿げているってわかってるんだけどなぁ~、目があっちゃったしなぁ、これで王子とも縁が出来たな!じゃないんだけど……しょうがねーなー。


「失礼、ありもしない冤罪吹っかけるのやめてもらえませんかねぇ」


 人ごみをかき分け、2人の王子の間に割って入るるが、突然横から出てきた俺をみてリバルが不快感を隠す事をせず話しかけてくる。冤罪という言葉が気に入らないご様子。


「冤罪、だと……?王子であるこの俺に対して無礼だぞ貴様!」


「弟の婚約者を寝取ってありもしない冤罪吹っかける方がよっぽど無礼では?

 あぁ、申し遅れましたが俺はカストル・フェンバッハ。といっても今さっきフェンバッハ家を廃嫡されたてホヤホヤなんですけどねーハッハッハ」


「……はぁ、廃嫡?廃嫡されて後ろ盾もないようなゴミが王子であるこの俺に舐めた口をきいたのだ、処断される覚悟はできているのだろうな?」


「―――この国で冤罪をかけることはたとえ王族であっても重罪。それをわかっているんでしょうねリ・バ・ル・王・子」


 挑発するように―――というか挑発するために煽る。先に向こうに手を出してもらわないと正当防衛が成り立たないからね、一応この後の事を考えると相手に先に手を出してもらわないと。


「貴様ぁ~ッ!死んで償え!!」


 そう言ってリバルが青筋浮かべながら剣を抜き、斬りかかってきたのでひょいっと回避する。んまひょいんまひょい♪ってね、……違うか。―――これも“ものまね師”のスキルである。


「何、この俺の剣を見切った、だと?」


 リバルの剣技は実際凄い。けど、俺の……いや“転生者”の俺が使う事で大道芸スキル扱いされてるハズレスキルの“ものまね師”も俺が使えばこの通りリバルの斬撃も容易く回避できるのだ。勿論ちょっとした理由はあるけどね。


「どうしたんだ?当ててみろよ」


 自慢の剣技を回避されて顔真っ赤になっているリバルをさらに煽る。


「ふ……ふざけるなぁ……後悔させてやるーッ!!」


「ほいきた、くらえフタキワパーンチッ!アーッ!!」


 勢いよく突っ込んできたリバルにカウンター気味にパンチを叩き込むと、グシャッという音とともにその顔面に俺の拳がめり込んだ。おぉ、綺麗に入ったぞ!!鼻の骨が折れて綺麗な鼻が潰れているのと、前歯も何本か折れてる。自慢の顔も形無しだな!ヒューッ!


―――下種は制裁っ!だよ。


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