第12話 嫉妬

(それにしてもこの魔法も便利ね。)


(本当にペンサー隊長は色々と便利な魔法を知っていますね。)


(私の世界では動物が軍人になるにはこのくらい出来ないとならないもんでね。)


 ペンサー隊長達は無事に帰宅していた。

 帰り道で取れた動物は二頭ほどだった。

 凶暴で身栄えなく襲ってくるこの星の魔物も最近多い外来種に対しての警戒度は高くなったのだ。

 これもこのクルの恩恵によって星の生命が成長した結果である。

 知能が芽生え始めた事によって更に凶悪な生態系へと進化していっているが、ラックがそれを知る事はなかった。

 草食動物もいるトナカイRX達が肉を食べれているのはペンサー隊長が教えて食物分解魔法による効果だった。

 肉食でも、草食でも、雑食と変わらない何でも分解酵素の代わりをしてくれるのだ。

 戦場で常に肉や草しか食えない状況である訳がないため、何でも食べれる様に軍人には必須の魔法の一つだった。念話もその一つである。


(ボスも久しぶりの肉を美味そうに食べているな。)


(・・・そうですか?兜丸さんは良く分かりますね。)


(我の飼い主も爺ちゃん達だったからな。何となく分かるんだよ・・・)


 クマは自分に何か難しい表情をしている様にしか見えないとラックを見て思っていた。

 兜丸は今頃何しているだろうと前世に思いを馳せていた。

 飼い主だったおじいちゃんはラックより感情を表に出さないタイプの人だった。

 だから、ラックの表情を読むなんて容易かった。


(それで次の編成はどうするんだ?当然、俺は入っているんだろうな。)


(変更は1ヶ月に一回しか出来ないんだ。編成は慎重に決めなくてはならない。まぁ、お前の空中からの偵察は周辺地図作成に役立つとは思うがな。)


(そんな事も出来るのね。)


(本当に器用ですね。)


 ハヤサが肉を啄みながら自信満々に胸を張って、次の地上調査には入っているだろうと思っていたが、ペンサーはまだ決めかねていた。

 頭の中で周辺地域のマッピングは出来るが、それを書く紙がなかった如何にも高そうな羽ペンだけあった為、紙さえあれば自分の血でも使って描けるのだが、と思っていた。

 そんなペンサーを見てトナカイRX姉妹は多才なペンサーに感嘆していた。

 自分達とは違ってSSRの連中は一芸特化のイメージがあったが、ペンサーは満遍なく有能な万能キャラだと思った。


(ヤーミお婆ちゃん、どう?)


(ヒッヒッヒッ、そう慌てるな、クマよ。少しこの土地の凄さに驚いただけじゃ。いい土じゃ、これなら酸素が少なくても成長に問題はないじゃろう。)


(頼みますよ。ヤーミ。貴方が成長したら水の確保も出来るかもしれない。)


 クマはヤーミがビクッと動いた事に気がついて心配そうに話しかけた。

 それを孫に心配をかけない様にするお婆ちゃんみたいにヤーミは話し始めた。

 ヤーミは3頭が地上に出る時に葉と茎と根の一部を3頭に持たせて移動中にばら撒く様に言っていた。

 ヤーミの仕事は地下深くに眠る大量の氷から水を生成してシェルター近くまで水を運ぶ事だった。

 ペンサーが地下深くまで掘るという方法もあったが、氷だと掘り当てても持ってくるまでに時間がかかる上に昼間の熱で蒸発し始めるかもしれない為、ヤーミに根で吸収してもらって茎から水を出してもらうのが一番安全に運ぶ方法だと考えたのである。

 植物が生えない程厳しいこの土地でも圧倒的な生命力で無理矢理根を張れるヤーミには問題なかった。

 生態系が乱れまくってしまっているこの付近の土地は日に日に死が満ちる土地になっている。

 ヤーミにとってはそんな土地の方が心地良かった。

 酸素があった方が成長速度が爆上がりするのが、その分、星の酸素濃度が激変してしまうことで前世では各星系で問題視されていた。

 誰からも厄介者扱いされて嫌われ者上等!と思っていたヤーミでもラックには嫌われないために召喚されてから一度も酸素を吸っていなかった。

 酸素が無くても生命活動に問題ないヤーミは現状において貴重な常に活動出来る人員の為、ラックは密かに頼りにしていた。


(・・・隊長。早く次の地上調査をしましょう。今回の成果で多少は財政は潤ったけどまだまだ足りないわ。)


 リルリルドールはその事を敏感に感じていた為、ラックにとって一番な配下は自分だと分かってもらう為、更なる成果を欲していた。


(焦るな。リル。ボスが言っていただろう。食事が終わったら、試したい事があるとそれが終わるまで地上調査と採掘は保留だ。)


 ペンサーはその事に気がついていた為、リルリルドールの気持ちを諌めてラックの指示を待てを言った。

 リルリルドールとラロラロドールは呼び名長いからと愛称呼ぶ事を皆に許可していた。

 どっしりと構えている皇帝様にも可愛い所があるもんだとペンサーは微笑ましく思っていながら食事を終えた。

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