第116話 Believe(16)
高熱がおさまった詩織は浅草の総合病院を退院した。
「・・詩織、さん?」
白川家の母のところに電話があった。
「おかげさまで少し良くなったので退院して自宅の近くの病院にかかることになりました・・」
少し良くなった、というわりにはまだまだ声もか細くて心配になるほどだった。
「そう。 ほんと身体を大事にしてね。 忙しいんだろうけど、」
「ありがとうございます。 いろいろお世話になりましてありがとうございました。 ゆうこさんにもよろしくお伝えください、」
詩織はそう言ったあと
あのかわいいドーム型のアレンジメントのことを思い出した。
「あの・・」
「え?」
言葉を続けることをためらった。
母は彼女が何を言いたいのかはわからなかったが
「これからも。 頑張ってね。 詩織さんもお母さんの跡を立派に継いでいく目標があるんだから。」
拓馬のことは一切口にせずに
今、自分がすべきことを諭した。
「・・はい。 ありがとうございます、」
詩織はいつまでも立ち直れない自分を
情けなく思い
そして
彼もきっと頑張っていることを想像し気持ちをしゃんとさせた。
拓馬は
詩織のことが気がかりではあったが
黙々と仕事と勉強に打ち込んだ。
きっと
彼女は元気になってまた頑張っている
そう信じて。
退院をした詩織だが
しばらくは自宅療養をすることになり
医師からも安静を言い渡されていたので、仕事を休んで自宅のベッドで過ごしていた。
「・・すみません。 仕事のキャンセルなどの面倒なことを、」
打ち合わせでやって来た千崎にそう詫びた。
「いえ。 今は静養が第一です。 ムリは禁物ですから、」
スケジュール帳を閉じたあと
彼は一息ついた。
「・・唐突ですが、」
そんな前置きから
「・・私と・・結婚を考えていただけませんか、」
千崎はまっすぐに詩織を見た。
「えっ、」
本当に唐突で
そのまま固まってしまった。
「・・ずっと。 そうすることが『千睦流』にとって一番いいと思っていました。 詩織さんも華道の道一本にされたのですから、これからは『千睦流』のことを一番に考えていただきたくて、」
詩織は
だんだんと驚きから現実に引き戻され
こんな大変な告白をされているというのに
冷静になっている自分に気づき始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます