第113話 Believe(13)
病室を出た後
「・・いろいろありがとうございました、」
詩織の母・喜和子は丁寧に頭を下げた。
そして
「私が思っているよりもずっと詩織はショックだったようです。 拓馬さんと別れたことで、かなり精神的に参っていたのに・・無理をさせてしまって、」
うなされながら
拓馬の名を呼んだ娘が
あまりにもかわいそうで
たまらなかった。
「もし・・詩織をそちらにお嫁にやることができたら。 全てが解決するのですよね、」
ハンカチを握りしめながらそう言う彼女に
「思いつめないでください。 そちらだって詩織さんがお嫁に行ってしまったら・・やはり大変なことになるでしょう。 今はまだまだ二人にとって一番いい方法が見つからないだけで。 少し時間を掛けて見つめなおす機会だと思って、」
拓馬の母はそう慰めた。
「白紙に戻っただけです。 終わったわけじゃない、」
喜和子はその言葉に少しだけ救われた。
「拓馬には・・」
帰り道、ゆうこは気になることを母に聞いた。
「うーん。 どうしよう。」
そのことになると母は悩んだような一面を見せた。
「拓馬もね、今本当に真面目に仕事に打ち込んでるんだよ。 お父ちゃんがなんだかんだで仕事場までついていって。 めちゃくちゃ怒られたりしてるみたいなんだけど、いつもみたいにグチも言わないし。 すごく真面目に頑張ってる。 詩織さんのこと忘れようと必死なのかもしれない・・」
「じゃあ・・知らせない方がいいの・・?」
ゆうこも何とか二人を会わせてやりたい気持ちが募るが
拓馬の決心をムダにすることも憚られた。
ななみはゆうこのスカートをぎゅっと掴みながら二人の会話を聞いていた。
拓馬はゆうこの携帯から着信があったので、すぐに通話ボタンを押した。
ところが。
「あ、たーくん??? ななみだよ。」
出たのはななみだった。
「え? なに? どーした?」
「あのねっ、あの・・おねえちゃんがね。」
「お姉ちゃん? ひなた?」
「ちがうよ! たーくんの・・カノジョの・・」
1年生のななみはまだ語彙不足でうまく伝えられず少しイラだっているようだった。
「カノジョ・・って・・しーちゃん?」
「そう! あのお花のおねえちゃんがね。 すんごい熱があってね。 ママがいつもいく赤ちゃんのびょういんにね、にゅういんしちゃってね、」
「はあ???」
ななみはすごく悪いことをしているように、風呂に入っているゆうこの目を盗んで電話をしていた。
拓馬は全くわけがわからなかった。
「しーちゃんが入院って・・。 え? ゆうこが行ってる病院???」
「そーなんだよ! 今日、そのおねえちゃんと川のところであってね。 そしたら、たおれちゃってね、」
ななみは必死に訴える。
しーちゃんが・・
倒れた???
ななみの話がイマイチ伝わらない上に
意味さえわからない。
「えっとね『はいえん』ってゆってた! すごいねつがあって、かわいそうなんだよ・・」
「肺炎・・」
「ななみがね、『またたーくんのところにあそびにきてね、』ってゆったら。 もう行かれないのって・・ないてた、」
ななみは幼いながらに
二人の異変に気づいていた。
あのときの詩織の涙が
言葉がなくても
悲しいことなんだと理解して。
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