第112話 Believe(12)
「・・詩織さん?」
ゆうこは詩織の様子がおかしいことに気づく。
彼女はななみの手を握ったまま、ガクっと膝をついてしまった。
「詩織さん、」
ゆうこがしゃがんで彼女の背中に手をやる。
そして慌ててその手を取ると、確かに熱い。
オデコに手をやり、その手から伝わる熱が異様に熱いのがわかった。
「・・す、すみません。」
立ち上がろうとしたが、めまいを起こしてまた倒れてしまった。
「し、詩織さん!」
ゆうこはパニックに陥った。
「いったいどうなっちゃってるの、」
ゆうこから助けを請う電話を受けた母はわけがわからなかった。
「偶然、隅田川沿いのテラスで会って。 そしたらすごい熱があったみたいで倒れちゃって、」
そのままタクシーを呼んでゆうこが産婦人科でかかっている総合病院に担ぎ込んだ。
「すみません・・ごめいわくを・・」
詩織は横たわって苦しそうに息をつきながらそう言った。
そのあと、激しく咳き込んでしまいゆうこは彼女の背中を摩った。
「おねえちゃん・・だいじょうぶ?」
ななみが心配そうに覗き込む。
詩織は黙って少しだけ微笑んだ。
診察の結果は肺炎だった。
「少し入院が必要だそうです。 お母さまに連絡をしないと、」
ゆうこはそっと詩織に告げた。
「私からしますから・・。」
「かかりつけの病院はありますか。 そちらで入院されたほうがいいんじゃないかと、」
「子供のころから喘息で入退院をくりかえしていましたが・・今はもうほとんど良くなって、病院にも行かなくなったので。 小児科しかかかりつけがないもんですから・・」
弱々しい声で言う。
「・・とりあえず。 こちらで落ち着くまで入院したら? 病院を替えるのもかわいそうだよ、」
ゆうこの母は言った。
詩織は高熱にうなされ、気の毒なほど苦しそうだった。
確かにこのままゆっくり休ませてあげたかった。
「すみません。 すっかりお世話になってしまって。 ここのところあまり体調がよくなかったようで・・」
詩織の母はすぐに病院に駆けつけた。
「会社勤めもやめて、今は『千睦流』で私の代わりの仕事をするようになりました。 慣れないこともあって疲れていたのでしょう、」
「そうなんですか、」
ゆうこの母は拓馬と別れることになってしまってからの彼女を思った。
詩織はすっかり寝込んでしまったが
ときおり苦しそうにうなされる。
「詩織、だいじょうぶよ・・」
喜和子は脇のイスに腰掛けてハンカチで汗を拭いてやった。
「・・ま・・さん・・」
聞き取れないほどの小さな声が彼女の唇から漏れた。
「たくま・・さん・・」
朦朧とした意識の中で
詩織は拓馬の名を呼んだ。
そして苦しそうに息をつきながら閉じられた目の端から涙が零れ落ちた。
誰もが
胸を締め付けられるような
気持ちになって。
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