第111話 Believe(11)
「友永さん・・」
ゆうこは彼女と直接会うのは、あの花の展覧会以来であったが
もう他人ではない気がしていた。
偶然ゆうことななみに会った詩織は、見た目にもわかるほど動揺していた。
「こ・・こんにちわ、」
目を伏せたままお辞儀をした。
「この近くで仕事があったんで。終わったので、少しボーっとしてました・・」
聞かれてもいないのに言い訳をしてしまった。
ななみは彼女に突然再会して、一瞬ゆうこの陰に隠れてしまったが
「お、おねえちゃん! あのっ!」
勇気を振り絞って前に出た。
不思議そうな顔をする詩織に
「このまえは・・ごめんなさいっ!!!」
ななみは思いっきり頭を下げた。
「この前・・?」
詩織は本当に何の事だかわからなかった。
「おねえちゃんに・・ひどいこといっちゃって。 おかし、くれるってゆったのに、」
ななみはずっとそのことを気にしていた。
ようやくそのことを思い出した詩織はしゃがんで彼女と目線を合わせて
「そんなこと・・ずうっと気にしていてくれてたの?」
詩織は優しくななみの頭を撫でた。
ななみが黙って頷くと
「・・いいのよ。 ぜんぜん気にしてないわ。」
こんなに小さい子が
こんなことを気にしてくれていたのか、と思うと胸が熱かった。
ゆうこはホッとしたように微笑んだ。
「また。 たーくんとこ・・あそびにきてね、」
何も知らないななみは
精一杯の言葉を掛けたのだが
ゆうこはハッとした。
詩織は視線を落として、微笑みながら
「・・ごめんね。 おねえちゃん・・もう行かれない・・」
小さな声でそう言った。
そしてななみの両手をそっと取った。
「え・・・どうして・・?」
二人の関係が破綻してしまったことなど
ななみは思いもせずに。
「もうね・・。 いかれないの、」
詩織ははらりと涙をこぼした。
ゆうこはただそこに佇むだけで
詩織の切ない気持ちがひしひしと伝わってきて胸がいっぱいになってしまう。
ななみは突然涙を見せた詩織に驚き、そしてぎゅっと握られた両手をジッと見た。
「あつい・・」
ななみがぽつりとつぶやいた。
「え、」
ゆうこが覗き込むと
「おねえちゃん・・あついよ・・」
そのななみの言葉に詩織はふっと微笑をたたえたあと、景色がぐるっと回った気がした。
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