第110話 Believe(10)
2、3日前からイヤな咳が続いていた。
「お医者様に診ていただきなさい、」
詩織の母・喜和子は彼女に言った。
「大丈夫です。 ちょっと埃っぽいだけ。 じゃあ、行ってきます。」
笑顔を見せて詩織は出かけていった。
この日は浅草のカルチャースクールでの臨時講師として呼ばれていた。
浅草・・
本当は拓馬を思い出すここへ来ることが気が重かった。
彼と過ごした
そのひとこまひとこまを思い出してしまう。
「顔色が悪いです。 具合が悪いんじゃないですか、」
同行した千崎が心配した。
「いえ。 どうやら台風が近づいているようですから。 ぜんそく持ちでしたから、今もそういう時はあまり調子がよくないだけで、」
詩織は講習の支度をした。
2時間ほどの講習を終えた後、
「先に戻っていてください。 少し寄るところがありますから、」
詩織は千崎に言った。
「・・しかし、」
ここが浅草であることが彼にはひっかかった。
詩織はそんな彼の気持ちを見透かしたように
「別に。 大した用じゃありません。 6時ごろには戻ると母に伝えてください、」
ふっと微笑んだ。
大した用ではない。
それは確かで
なんだかぼんやりとしたかった。
隅田川沿いのテラスのベンチでぼうっとした。
台風が近づいているからか
雲の流れが速くて
曇ったり晴れたりと天気が忙しい。
日が差し込むたびに水面がきらめく。
彼のことを思わない日はない。
ふっと気がつくと
やっぱり彼のことを思う。
気が付いたら小一時間ほどそこに座りこんでしまい、詩織はそれに気づいた慌てて立ちあがった。
その時。
「あ・・」
ゆうこに手を引かれたななみが声を上げた。
ゆうこも
もちろん詩織も驚いた。
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