第109話 Believe(9)

翌朝、拓馬が仕事場に向かうのに実家に車を取りに寄った。



すると



父がいつもの作業着を来て待ち構えていた。



「・・おれも行くぞ、」



と靴をはき始めたので驚いた。



「何言ってんだよ。 安静にしてなきゃダメだろが。 昨日まで入院してたんだぞ、」



拓馬は驚いてそう諌めた。



「なんだか朝から支度しちゃって。 きかないんだよ、」



母も困ったように言った。



「仕事するなんて言ってねえ。 おまえの仕事ぶりを見るだけだ。 目え光らせてねえとどうなってるか心配だからな、」



父はぶっきらぼうにそう言った。



拓馬と母は目を合わせて小さくため息をついた。



父が一度言い出したらきかないことは十分承知していた。




もう夏も終わりだというのに暑かった。



「こっちを先に合わせろつったろ! 上まで組んだ時にちょっとでもズレてると合わなくなるぞ、」



父はそんな中でもいつものように指示をして



拓馬は体調が心配だった。



「おめえ何聞いてやがんだ! 色が全然合ってねえじゃねえか! よく見ろ!」



その怒鳴り声も



全くいつもと同じで



拓馬もひょっとして父が治ってしまったのではないか、と錯覚してしまう。



いつもは鬱陶しいだけの父の説教も



なんだかそのひとことひとことがありがたい。



仕事と勉強だけに打ち込みたい



そうしなければ



彼女のことを思い出す。



拓馬はわざと毎日を忙しく過ごそうとしていた。





相変わらず父から怒られる毎日。



それでもひとつひとつが勉強だと思える自分がいる。



建築会社にに一人で打ち合わせに行って夜実家に車を置きに戻ると



庭の片隅に父の姿があった。



いつも道具の手入れをしている場所なのだが




それが父のものではなく自分のものであることに気付いた。



一生懸命に刃物に研ぎ石を充てている。



父から一度だってほめられたことなんかない。



口を開けば怒鳴られるばっかりで




自分もそんな父に反抗するだけだった。



それでも



ああやって一生懸命に仕事道具を整えてくれている。




いつだって



口で優しいことなんか言ったりしない人だ。



だけど



後ろにいてくれているってわかっているから



おれだって自由にやれた。



オヤジがいてくれたから



やってこれた・・


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