第106話 Believe(6)
「わー、たーくん、じょうず~。」
仕事帰りに志藤家に寄った拓馬はななみや涼太郎たちと一緒におりがみをした。
「すごーい。 かぶとむしだあ、」
涼太郎はそれを手渡されて大喜びだった。
「ななみにもおしえてー。 ほんとのかぶとむしみたいにちゃいろでつくろう、」
だんだんおなかが大きくなってきたゆうこが4人の子供たちの世話に大変なことがわかっているのか
こうして夕飯の支度をする忙しい時間にちょくちょく来てくれるようになった。
「拓馬も食べていって。 今日はまた幸太郎さんも遅いから、」
「ああ、いいよ。 楓ンとこで食ってくから。 お母ちゃんも病院で忙しいしさ。」
と立ち上がると
「え、もうかえっちゃうの?」
ななみが寂しそうに拓馬のシャツの端を引っ張った。
「また来るよ。 涼太郎もちゃんとママの言うことをきけよ、」
涼太郎の頭を撫でてニッコリ笑った。
彼女のことも
気になるけれど
とっても聞けるような雰囲気ではなかった。
明るく笑っているけれど
いつもの兄らしくもない気がしていた。
「なんか・・たーくん、げんきなかったね。」
ななみも敏感に感じ取っているようだった。
「・・そうだね、」
ゆうこはななみの頭をそっと撫でた。
「まあ。 あたしもなんとかしてやりたいけど。 こればっかはね~~~、」
楓は拓馬のグラスにビールを注いだ。
「おまえにどーにかしてもらおうと思ってねえよ、」
ブスっとしてそれに口をつけた。
「おじさんの具合、どうなの?」
「オフクロの話では最初にやった抗がん剤が少し効いてるみたいで骨に転移したガンの影が薄くなってるんだって。 治ったわけじゃないけど・・って。 最近は腰が痛いって言わなくなったって。」
「・・そう。 ウチのばあちゃんもさあ、胃がんだったけど。 お医者さんにあと三ヶ月ですって言われて2年生きたんだから。 年寄りの2年は大きいもん。 おばあちゃんが死んだあともウチのお母さんも少しでも長く生きられてよかったって言ってた。」
父の死なんか
絶対に考えたくない。
だけど、現実もきちんと見据えていかなければならない。
「まあでも。 拓馬が白川家から籍を抜かなくてよくなったのは・・・おじさんは本心では喜んでるかも。 和馬はサラリーマンだし、実際おじさんの仕事を継いでるのは拓馬だからね。 あんたのことを頼りにしてるんじゃないの、」
最近はそれもヒシヒシと感じるようになった。
父が仕事ができなくなったら
両親を養うのは長男の役目なのかもしれないけれど
父の仕事を継いでいるのは自分だから
自分が面倒見るのが当たり前だと思っている。
だから
しょうがないんだ
そう思うと
詩織の顔が浮かんできて
彼女を泣かせてしまったことだけでも自分の罪がどれだけ重いかと猛反省する。
大っきらい
って言われて別れる方がどれだけ楽なんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます