第102話 Believe(2)
こんな大事なことを
電話なんかで言うことに
自分の卑怯さを感じた。
しかし
彼女に会ってしまったら
絶対に言えないと思った。
今でも
大好きだから。
「オヤジは。 おれに学歴や金を遺せなかったことを自分の責任だと思ってる。 なんもいらないっておれは思うのに、そんなこと気にしていたんだって・・思ったらもうたまんなくなっちゃって、」
みっともないと思いながらも
声が震えてしまった。
「おれをなんとか一人前にしようと思って仕込んでくれたオヤジをおれは裏切れない。 さんざん迷惑かけて親不孝してきて・・これからたくさん恩返しをしなくちゃいけなかったのに。 もう・・時間がない、」
詩織は
電話の向こうでただただ呆然とするだけだった。
「しーちゃんにはしーちゃんの・・家の事情がある。 結婚は本人同士がよければいいもんじゃないって思い知った。 おれたちは・・やっぱりムリだよ、」
彼女を幸せにするのは自分しかいないって
思っていたのに。
おれ
なんて情けないこと言ってんだ
拓馬はもうどんどん涙が溢れてきてしまって、思わず手でゴシゴシと拭った。
「拓馬さんの・・ところに行ってもいいですか、」
詩織の小さな声が聞こえた。
鼻をすする音が聞こえて
彼女も泣いていることがわかった。
「ダメだ。 もう・・おれ、しーちゃんに会えない。」
ようやく決心した気持ちが揺らいでしまう。
しかし、詩織は気持ちが決壊してしまったかのように
「イヤです! あたしは拓馬さんと一緒にいたいんです!」
泣きながら叫んでしまった。
「拓馬さんが・・白川のおうちを出れないのなら、あたしは友永の家を捨てます! それであなたと一緒になれるのなら・・家を出ます!」
興奮したように言う彼女に
「バカなこと言うな! ・・しーちゃんにだって・・ずっと大事に華道の道に導いてくれたお母さんがいるんだぞ!」
思わず声を荒げてしまった。
「もう・・そんなことどうでもいいんです! あたしはもう拓馬さんしか考えられないんです。 別れるなんて・・イヤ!!」
いつもいつも物静かで
頭が良くて、空気が読めて
おしとやかな彼女が
こんな風に取り乱すことが驚きで
そして、そんな風にしてしまったのは自分だと思うと
身を切られるようにつらかった。
「ごめん、しーちゃん・・。 ごめん、」
謝ることしかできない自分が
惨めだった。
詩織も
拓馬や拓馬の父の気持ちを思うと
彼が家を出ることができないことは充分に理解ができた。
わかっているけれど
どうしても彼と別れることが
理屈でなくできなくなっている自分に歯止めが掛けられなくなっていた。
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