第101話 Believe(1)

「拓馬さんが・・」



詩織は帰宅した母から事情を聞かされて茫然とした。



「・・彼、かなり精神的につらいみたい。 今は私も・・何も言えないけれど、」



喜和子は髪留めをはずしてため息をついた。



「一度。 きちんと話し合った方がいいんじゃないかしら、」



そして詩織に向き直った。



「話し合うって・・」



「あなたたちが愛し合ってることはわかる。 本当の気持ちだってこともわかっています。 でも、結婚は一生の問題なのだから。 私はあなたたちに勢いで一緒になってほしくない。 これからの人生をよく考えて・・決めなさい、」




詩織は言いようのない不安に包まれた。




彼がいったい何を思うのか。



父親のことで不安定になっている彼の気持ちを理解しようと思う気持ちと



やっぱり自分のことを思ってほしい気持ちと




たくさんのことが一度に押し寄せてくる。



拓馬に電話をしようかどうか



迷っていた時



携帯が鳴った。



「ごめん、なんだか・・心配かけて、」



拓馬は詩織が母親から事情を聞いたのではないかと思い、まず彼女に謝ってしまった。



「・・いいえ。 母からもう一度きちんと話し合うように言われました、」



詩織の声はもう震えていた。



「あのね、」



しばらくの沈黙の後拓馬は静かに話し始めた。



「たくさんいろんなこと考えた。 頭がおかしくなるくらい考えた。 だけど・・どう考えても、答えが同じだった、」



詩織は敏感に彼の思いが伝わってしまい



携帯を持つ手が震えてしまった。



「・・しーちゃん。 おれたち、別れよう。」




その言葉を聞きたくなくて



思わず目をぎゅっとつぶってしまった。




「ほんと・・おれからしーちゃんに近づいたくせに。 おれさえ諦めていれば。 こんなことにならなかったのに、」



もう



詩織には申し訳なくて申し訳なくて



胸がつぶれそうな気持だった。



「自分が頑張れば・・なんとかできるって思ってた。 おれが、バカで甘かった、」



拓馬は声を震わせた。

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