第11話 Dear(11)

そうだ



ハンカチ・・



拓馬は家に戻ってから以前詩織に借りたハンカチのことを思い出した。



慌てて引き出しから取り出した。



あのあと洗ったものの



時間が経ってしまったので、思わず匂いを嗅いだ。



やっぱもう一回洗っておこう・・



洗面所で洗濯をしていると




「なに? 珍しい・・」



母が覗き込んできた。



「いーじゃねーか、別に・・」



鬱陶しそうに返事をすると、



「あれ? 女物???」



目ざとく指摘された。



「・・借りたの。 いちおう洗って返さないと・・・」



きちんと柔軟剤にも浸した。



「へ~~~~。 ドラマだとそういうところから恋が始まりそうなんだけどねー、」



母はそう高らかに笑って行ってしまった。



バカ・・


んなこと、あるわけねーだろ。



拓馬は恨めしそうにため息をついた。





あるわけない。



もう一度言い聞かせるように、ぎゅっと搾って洗濯機の脱水に掛けた。



翌日、父よりも少し早く家を出て拓馬は友永邸にやって来た。



詩織の出勤時間の前に行っておきたかった。



「おはようございます・・お早いですね、」



詩織は少し驚いたように言った。





お早いですね・・



なんて



絶対ウチの近所の女は言わない



拓馬は思わず心で反芻してしまった。




「あの。 コレ。」



拓馬はバッグから和紙の袋を差し出した。



「え・・?」



何だかわからずに手を出した。



「この前。 花の個展の時にハンカチを借りたでしょう。 ずっとどうしようかと思ってて、」



そう言われて



「ああ・・」



彼女はようやく思いだしたようだった。



その袋からそっと取り出した。



「いちおう・・洗ってあるから。 ほんと、偶然に会えてよかった。」



拓馬は何気なくそう言ったのだが



「え、」



詩織は少しドキンとしたように彼を見た。



沈黙になってしまったので、何だかキモい男だと思われたんじゃないかと思い



「や! ヘンな意味ではなく!! どーやって返していいかわかんなかったし!! まさか家のリフォームを頼まれるなんて、すっげー偶然だって・・思って!!」



必要以上に否定をしてしまった。



その姿に詩織はポカンとしたあと、ぷっと吹き出した。



「・・いえ。 ありがとうございました。 きちんと返してくださって。」



彼女にまっすぐに瞳を向けられて



どきん。



と、心が疼いた。



思わず自分の胸に手をやってしまった。

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