第7話 Dear(7)

「あ・・ありがと・・ございます・・」



ななみは驚いたようにそのペットボトルを受け取ろうとした。



「開けてあげましょう、」



詩織はその前にボトルのキャップを開けてやった。




「あ・・すみません・・」



拓馬はなぜ彼女がななみが水を欲しがったことがわかったのかが不思議だった。



それも見透かしたように



「さっき。 咳をしていたでしょう? 少し苦しそうだったので、」



詩織は何事もなかったように微笑んだ。



ななみはそれをおいしそうに一口飲んで



「いつもママが咳がでそうになったら少しだけお水をのみなさいって、」



と詩織に言った。



「あ、こいつ・・喘息があって。 ついこの間も発作を起こして学校を休んだりしたもんだから、」



拓馬は思わずそう説明した。



「喘息? ・・そう。 あたしも子供のころ喘息だったの。 学校もあんまり行けなくて、」



詩織は少ししゃがんでななみに視線を合わせた。



「でもね。 大きくなると少しずつ良くなるから。 きっと大丈夫よ、」




本当に



あったかくて



ホッとする笑顔だった。



ななみが二口目を飲んだとき、水が少し口からこぼれてしまった。



「あ、おようふくぬれちゃった。たーくん、はんかち・・」



ななみがお気に入りの洋服が濡れてしまって、あわててそう言った。




すると拓馬よりも先に詩織がバックからハンカチを出して、拭いてくれた。



「あ・・すみません、すみません、」



拓馬は恐縮してしまって何度も頭を下げてしまった。



「平気です。 お水だからシミにもならないわよ。」



そう言って詩織は拓馬に軽く会釈をして、その場を立ち去ってしまった。


[

あのおねえちゃんに・・返さないと、」



ななみは手渡されたそのハンカチを気にした。



「きちんと洗って返そう、」



安心させるようにそう言ったが



そんな日本でも有名な華道家のお家元のお嬢さんに



こんな簡単なことさえ叶うのか、と一瞬で思った。




「キレイだったね~~~。 ゆめみたいに、」



帰りの電車の中でもななみはうっとりとして言った。



「ななみも花が好きなんだな、」



拓馬は笑った。



「だいすき! ななみ、おおきくなったらおはなやさんになりたい、」



久しぶりの外出でななみも晴れ晴れとしていた。



拓馬はふとポケットに手を入れたときにさっき詩織から借りたハンカチに触れた。



たぶん。



返すことなんかできないな・・




やっぱりそう思って諦めのため息をついた。




・・にしても。



キレイな人だったな



さすがに上品で。



ウチの近所なんかに絶対いないタイプだったなァ・・



あのなんともいえないあったかい笑顔を思い出した。

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