第6話 Dear(6)

「へー。 でっかいトコでやるんだなあ・・」



拓馬は会場があるビルを見上げた。



「一階のロビーの一角よ。 でも、アレンジメントの世界では有名な方だから。 けっこう大きくやってるみたいよ、」



ゆうこは言った。



「おれ、こんなカッコでだいじょぶ?」



拓馬はフツーにダメージのジーンズと綿のシャツで来てしまって少し気にした。



「ま。 一般の人もいるから・・何とかなるんじゃない?」



すると、拓馬と手を繋いだななみが



「だいじょーぶだよ。 たーくん、あやしいひとにはみえないよ、」



と笑顔で励ました。



「ななみに言われると大丈夫な気がする、」



そんな彼女の頭を撫でた。




「よく来て下さいました。 あらあらお嬢ちゃんも、」



ゆうこのアレンジメントの先生になる緒方葉子はにこやかに彼女を迎えてくれた。



「本日はご盛況でなによりです。 あ、私の兄です。 花に興味があると言って・・」



ゆうこは彼女に拓馬を紹介した。



「ああ、そうですか。 男の方もいまは珍しくないのよ。 今日も若い男性もたくさんいらしてくれて・・」



そのとき



「・・葉子さん、ごぶさたしております。」



一人の和服姿の婦人が挨拶に訪れて、ゆうこたちは一歩引いた。



その婦人を見た葉子は



「喜和子さん。 まあ・・お久しぶりねえ。 何年ぶりかしら。」



驚いたようにそう言った。



「今日は久しぶりにあなたの個展だというので。」



上品そうなその婦人は優しい笑顔で言った。



そこにいたゆうこたちを気にして葉子は



「この方はね。 『千睦流』のお家元の友永喜和子さん。 私の学生時代のお友達なの、」



と紹介してくれた。



「え・・『千睦流』のお家元・・」



ゆうこは驚いてしまった。



『千睦流』といえば



日本でも有名な華道の流派のひとつ。



「・・この方は志藤さんと言って私が15年ほど手ほどきをしている生徒さんなんです。 今日はお嬢さんとお兄さまと一緒にいらしてくださって、」



紹介なんかされて恐縮してしまう。



「そうですか。 今日は私も娘を連れて参りました、」




家元の後ろから同じように和服姿の



小柄な女性が現れた。



そこにいたのがわからないくらい



と言ったら失礼なのだろうが



静かな佇まいであった。




そしてゆうこたちの前に現れた彼女がニッコリと微笑んで



「・・娘の詩織でございます。 今日はおめでとうございます、」



どこにいるかわらかないほどだったのに



その瞬間、光が差した気がした。



いや



拓馬には確かにそう思えた。



ゆうこがその後も葉子やお家元との歓談を続けていると、ななみは拓馬のシャツの裾を引っ張った。




「たーくん・・ななみ、のどかわいちゃった・・」



ななみはこそっと言った。



「え、のどかわいたの? ええっと、どこかに自販機は・・」



「今日、水筒もってくるのわすれちゃった・・」



外出の時はいつも水を持って出かけるのだが、今日は忘れてしまった。



「外に行けばあるかな、」



拓馬がキョロキョロしていると



「・・ハイ、」



キレイな声がして、ななみにペットボトルの水を手渡してくれたのは


あの


お家元のお嬢さんだった。

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