第4話 Dear(4)

「ただいまァ、」



拓馬は帰宅した。



「あ、お帰りなさい。 今日はけっこう早かったですね。 モーリスのことだからまだまだかかるかもって思って、」



とびきりの笑顔で彼女が目の前に飛び出してきた。



「今日は。 けっこう聞き分けよかったよ。 必ずひっかかる飲み屋の前も素通りだったし、」



拓馬は笑った。



「食べ物に弱いんですよね。 何か食べてきました?」



「や、何も。 腹減った、」



そう言うと嬉しそうに



「じゃあ、ゴハンあっためますから。 ちょっと待ってて、」



キッチンに引っ込んだ。




妻の詩織は一回り年下で。



結婚したのは4年前だった。



30も後半になっても実家住まいで



あんまりにも居心地が良かったので、結婚もどうでもよくなっていたころ



彼女と知り合った。




「今日の鶏のからあげ、最高に美味しくできたんです。 もう感動するくらい、」



詩織は嬉しそうに食卓に運んできた。



その笑顔がいつも自分を救ってくれた。



結婚して4年。



子供ができなかった。



夫婦二人診察を受けたりしたが



特に問題があるわけではなかった。



ゆうこの子供たちを本当にかわいがっている拓馬にしてみたら



自分の子供が欲しいと思うのは本能としてあるものの



彼女が治療に頑張っているのを見ると、



子供なんかどうでもいいって思ったりもする。



でも。



自分たちの結婚の『意味』を思うと



彼女が必死に思う気持ちも痛いほどわかっていた。



もう。



5年前になるのか。



壁に飾られた結婚式のフォトフレームに何気なく目をやった。




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「お。 キレイやなあ。」



志藤はリビングに飾られた花を目ざとく見つけてそう言った。



妻のゆうこは花好きで



仕事を辞めてからは育児の傍らフラワーアレンジメントの講習を受けて、今はもう講師ができる資格まで得た。



「でも・・いつものゆうこの感じとちゃうなァ、」



志藤はその花をまじまじと見た。



ゆうこはキッチンからやって来て



「ほんと、鋭いですねえ。 これはあたしが活けたものじゃないんです、」



彼がスーツの上着を脱ぐのを手伝った。



「やっぱり。 でも・・めっちゃ斬新やし、ハッとする。」



ゆうこはクスっと笑って



「コレ。 誰が活けたと思います?」



彼に少しイジワルな質問をした。



「は? 誰? お花の先生?」



彼の答えが思い通りだったので、可笑しそうに笑いながら



「これは。 拓馬が活けたんです、」



少し得意気にそう言った。

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