第3話 Dear(3)

おれは



『最悪の親不孝』



をしたって今でも思ったりする。



拓馬はななみを家まで送り届けたあと、モーリスの散歩を続けながらしみじみ思った。



そこに携帯が鳴った。



「あ? うん、今モーリスの散歩。 ななみがウチにいたからさあ・・今家まで送るついでに。 またこいつが道草ばっかでなかなか帰ろうとしねーから。 おれも腹へってきた。 終わったら帰るよ、」




優しい声でそう言った。





子供たちの成長を見るたび



月日の流れをイヤというほど感じる。



白川家もたくさんのことが変わって



いや



一番変わったのは自分かもしれないと思っていた。



「え、拓馬に送ってもらったの?」



家にいたゆうこは戻って来たななみに言った。



「うん。 ちょっと寄れば? って言ったんだけど、さっさとモーリスのお散歩を終わらせて帰るって、」



ななみは持ち帰ったカーデガンをキレイに畳みながら言った。



「・・そう。」



ゆうこは少し微笑んで食事の支度をまた始めた。



「ねえ、ママ。」



そんなゆうこにななみは近付いて神妙に声をかけた。



「たーくんは。 おじいちゃんに悪いことをしたのかな、」



意外な問いかけにゆうこは思わず彼女を見た。



「え・・・」



「なんかさあ。 いっつもおじいちゃんの話とかすると。 たーくん、元気なくなっちゃって。」



ななみは自分と似て感受性も豊かな子供だとずっと思っていた。



そんな娘にゆうこは優しく頭を撫でて



「おじいちゃんは。 たーくんのことを怒ったまま天国に行ったんじゃないよ。 たーくんはママのお兄さんだし、おばあちゃんの息子だし。 おじいちゃんの息子でもある。 何も変わらないのよ、」



笑顔でそう声をかけた。





「そっか。 ななみがね。」



その晩、家に帰って来た志藤にゆうこはその話をした。



「ななみは・・本当に小さい頃から拓馬が大好きで。 いろいろ気になるみたい、」



ゆうこは彼に酒の肴を運んできた。



「まあなあ。  子供とはいえ、なんか違うってことは気づいてるのかもしれへん、」



志藤はビールグラスに口をつけた。



「そんなの意識する方がおかしいわ。 拓馬が今でもあたしたちの家族であることには変わりないし、」



「一番は拓馬が今でもお義父さんに対してやっぱり申し訳ないって思い続けてることかもしれへん。」



その言葉にゆうこは少ししんみりして



「・・そう考えるとあたしたち兄妹は誰一人『フツー』の結婚できなかったし。 お父ちゃんとお母ちゃんにどんだけ心配かけたんだろうかって、」



ため息をついて志藤の前に座った。



それを言われると。




ゆうこをいきなり妊娠させて



もう怒濤のように結婚まで至ってしまった自分の責任までヒシヒシと感じる。



長兄の和馬はバツイチの子持ちの女性との結婚を選び。



そして



拓馬は・・



「でも。 白川家は今も幸せやと思うで。 お義父さんやって・・きっとそう思ってる、」



志藤はある意味



『希望的観測』



を自分に言い聞かせるようにそう言った。

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