第2話 Dear(2)
「こらこら、道草を食うな・・」
モーリスは好奇心旺盛な犬で、散歩をさせると1~2時間は戻れないほど寄り道をする。
「この前もねー。 莉子ちゃんがお散歩してたら、ずうっと帰ってこなかったんだって。 おばちゃんも心配しちゃったって、」
ななみは笑った。
「莉子は。 もう高2になるのかあ。 早いなあ、」
「莉子ちゃんねえ、吹奏楽でサックスやってるんだよ。 この前聞かせてもらったけど、すっごいカッコよかった! 今度ね、学校で公演があるんだって。 あたしも連れてってもらうんだ、」
「そっかあ・・」
「莉子ちゃんはウチのお姉ちゃんよりもあたしたちの面倒を見てくれるんだよ。」
拓馬はぼんやりと考えていた。
莉子は6年前兄・和馬の『娘』になった。
義姉・優花子の連れ子で。
兄と一緒になったころは小学校4年生だった。
「この前、ママが言ってたんだけど。 かーくんとユカおばちゃんは中学校の同級生だったんでしょ?」
ななみは拓馬の顔を覗き込んだ。
「うん。 和馬の・・初恋の人、だな。」
「えー、そうなの?? 初恋ってさあ・・実らないってこの前読んだ本に書いてあった・・」
「ハハ。 まあ・・普通はあんまりないかな。 実際、別にそのころ和馬はユカちゃんとつきあってたわけじゃないし。 憧れだけで終わっちゃって。 ユカちゃんは、別の人と結婚しちゃって。 子供も生まれて。 普通はそこでもう終わりなんだけど。 運命ってヤツじゃないの? ダンナさんと別れて、そんで和馬と再会して。」
「あたし、おじいちゃんとかーくんがすんごいケンカしたの覚えてるよ、」
「ああ。 そうだったなあ。 オヤジが反対してなあ。 自分の子供じゃない子供を・・育てるって大変なことだって思ってたんだろうけど。 あれでも心配してたんだろうな、」
今は亡き父のことを思い出してしんみりした。
ななみも寂しそうに
「でも。 たーくんのがもっともっと大変だったよね、」
そう言ったあと、彼の顔を見てクスっと笑った。
「あ? ああ。 まあ。 あれが『最後』の大喧嘩だったけどな、」
行きたがるモーリスを抑えながら彼も笑った。
「あたし・・すっごく覚えてるよ。 『あのとき』のこと、」
ななみは身体は小さいが、本当に精神的にしっかりしていて
姉のひなたよりもよく物事を考えている。
拓馬は『あのとき』のことを思い出してしまい
また無口になった。
「ほんと。 親不孝ばっかだったからな。 おれは、」
「でも。 きっとおじいちゃんも天国で安心してるよ。 たーくん、ちゃーんと大工さん続けてるもん。 おじいちゃんみたいに、」
ななみに逆に励まされた気がして
ちょっと照れ臭かった。
「他にできることがないから。 しょうがなくやってるだけだ。」
そして遠慮がちにそう言った。
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