第38話 来世

 



「おぎゃあ、おぎゃあ」


 その日、日本の家庭に一人の女の子が生を受けた。

 名は、近藤真里、くしくも、ティアが用いていた偽名と同じ名前だ。

 彼女は、安産とはいかなかった。

 彼女は、生まれつき、足の障害を持っていた。

 そこから、彼女は歩けないからだとなってしまっていた。


 そして、別家庭にも一人の男の子が生まれていた。

 名を高木正晴、ただ、彼は生まれた家庭が悪かった。

 彼は日々、酒中毒者の暴力的な父親に暴力を振るわれながら生きた。


 母親も、父親の暴行に耐えかねて家を出て行った後だった。


 そんな二人が出会ったのは、二人が高校生の時だった。






「いつもごめんね、お母さん」


 真里は母親に謝る。毎日学校まで押してもらっているのだ。

 それに真里は少し罪悪感を感じてしまっている。

 本来必要のない負担を与えてしまっているという事実が、彼女に罪悪感を与えている。


「大丈夫よ、これくらい。筋トレになるわ」


 そう言って、真里の母、花江は、腕をぶんぶんと振り回す。


「ありがとう」


 真里は素直に感謝をする。ただ、お母さんも、年齢を重ねるうちに、車いすを押すのがきつくなっていることに、気づいている。早く何か代替案を考えないと、学校に行けなくなると感じている。

 そうなれば、普通の高校には通えなくなってしまう。


 それは嫌だ。学校には仲のいい友達もたくさんいる。

 彼女たちと離れるのを、真里は恐れていた。


「はあ」


 真里は軽くため息をついた。

 生まれつきだから仕方がないとはいえ、他人に迷惑をかけてしまうからだ、それを辛く感じている。


「ごめんね真里、健康に生ませてあげられなくて」

「え、いや、お母さんのせいじゃないじゃん」


 お母さんを責めるのはまさにお門違いも甚だしい。

 お母さんのせいではないのに。


 そして真理は、学校に着くと、そこで待っていた 真里の友達である、由利が待っていた。

 花江は彼女に車いすをわたし、家へと帰っていく。

 本当は家からずっと由利が車いすを引いていたらいいのだが、彼女はあいにく、別方向から登校している。もし、家まで迎えに言ってたら、倍以上の時間が、彼女にかかってしまうのだ。


「由利もいつもありがとう」

「いえいえ」


 この学校は車いすの生徒もそこそこいるという事で、階段のそばに軽い坂道がある。

 そこで車いすの生徒は上がるという仕組みになっている。


「よいっしょっと!」


 そんなことを言いながら、由利は真里を階段の横の坂を上りながら押していった。



 そして教室に着き、由利は真里を彼女の席に着かせ、その隣の席に由利は座る。


「由利、お疲れ様」

「うん、疲れたわ。真里のおかげで」

「ええ!?」


 そう真里が言うと、「冗談よ」と言いながら、由利は真里の頭をなでた。


「さて、今日は転校生が来る」


 ホームルームが始まるとすぐに、先生がそう言った。その言葉に生徒たちは沸く。

 クラスに一人メンバーが増える。それは生徒たちにとっては大ニュースだ。


「どんな子が来るかなあ」

「それは分からないよ」

「そうだけど。イケメンだったらいいなあ」

「由利、イケメン好きだもんね」


 そんな話をしていると、転校生らしき男の子が入っていく。


「どうも、高木正晴です。よろしく」


 そう、淡々と自己紹介をする正晴。


「あんがい普通の顔ね」


 そんな辛口評価を下し、興味をなくす由利。ただ、その一方真里は興味を持った。

 なぜ興味を持ったかは、説明がつかない。顔もイケメンなわけでもない、今まであったことも無いし、態度も悪い。ただ、そんな彼から目が離せなくなった。

 その理由は、前世からの縁であるのだが、彼女がはそれを知る由はない。


「じゃあ、そこ空いてるから」

「はい」


 そして、正晴は真里の隣に座る。



「ねえ、」


 ホームルームが終わった後、早速真里は正晴に話しかける。


「どこから来たの?」

「……教える必要ある?」


 つんっと返され、少しショックな真里。



「むむむ」

「それよりもあんた、足怪我してんの?」

「生まれつきだけど」


 あんたと言われたので、少しイラっとした真里は少し厳しい口調で返す。


「へー、あんたも苦労してんだね」

「うん、苦労の塊よ。……ってあんたも?」


 その言葉に引っかかった真里。思わず大きい声を出してしまう。


「ああ、苦労してるぜ」

「なにで?」

「内緒」


 内緒と言われ、ますます真里は正晴の苦労が気になった。

 何か秘密でもあるのかと。


 だが、彼女は自分の足をふと見て、そんな無理に聞くものじゃないなと、聞くのをやめた。

 自分が足が不自由であるのと同様に、他の人にも秘密があるのだ。それも人に言えない秘密が。



 だが、それから正晴と仲良くなるのに時間はかからなかった。

 真里と正晴はいつの間にかともに帰る仲になった。


「いつもありがとうね、高木君」


 花江が正晴にそう言った。


「いえいえ、真里のためだから」


 そう、正晴は、言って、車いすを玄関から上がて、持っていく。


「あいがとう」


 そして、花江が真里の車椅子を受け取るのを見て正晴が去ろうとする。だが、真里は「待って!」と叫んで、その帰りを止めた。


「少し、私の部屋に行かない?」


 そして、正晴と真里はリビングに座る。ちなみに正晴は門限府があるらしく、5時までい墓和えらないといけない。だが、それでも一時間弱はここにいられる。


「っしかし、どうしたんだよ。いったい」

「いいじゃん。家でも話したかったんだしー」


 真里はそう言ってはにかんだ笑顔を見せる。


「まあでも、家より真里と一緒に入れる方が幸せなのは確かだな」

「なにそれ、うれしい」

「うるせえ、いいだろ別に」


 そう、ため息をつく正晴をじっと真里は見る。


「なんだよ」


 正晴は、そう言って目をそらす。


「いや、別に。正晴君ってイケメンだなと思って」


 真里が悪ぶれもなく言うので、正晴の顔は赤らめていく。


「冗談でもいうなよそんなこと」


 正晴は、時計を見ながら言う。その様子から見るに、真里を直視できないようだ。それを見て真里は悪戯な笑顔を見せながら言う。


「へー、照れてるんだ」

「照れてねえよ!」


 正晴はコンマ0.1秒で否定する。まるで、触れられたくない何かがあるいたいに。

 それを見て真里は、さらににやつく。


(これは、おちょくり甲斐がありそうね)


 実のところ、真里には異性の友達がいたことなんてほとんどない。だからこそ、こういうおちょくるのが楽しいのだ。


「ふーん。好きなら好きって言いなさいよ」

「そんなんじゃねえよ」

「ふーん。顔には好きって見えるけど」

「うるせえ、それ以上言うんだったら帰るぞ!!」


 そう言って帰るふりをした正晴に対し、手を合わせて「ごめん」と謝った。


 そして、二人は軽くカートレースゲームをして、正晴は帰る。


「今日は楽しかった。ありがとな」

「うん! 私も楽しかったー!! ありがとう」

「おう!」


 そして、正晴は家に帰った。



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