第37話 決着
悪魔王は雅夫さんの攻撃を受けてなお生きている。そして、ぼろぼろになりながらもこちらに向かってきている。その恐怖は計り知れない。
何で生きてるの?
雅夫さんの命を犠牲にしてるのに。
「危なかった、あと少しで親子心中を図られるところだった」
悪魔王はそう言って一歩ずつこちらに向かってくる。
絶望感しかない。
もう雅夫さんはいない。
もう私たちは助からないかもしれない。
だけど、
「雅夫さんの意志は無駄にはしない」
そう言って私は悪魔王の前に立ち上がった。どんなに勝ち目が薄くても、負けるわけには行かない!
「ほう、お前に私が倒せるのか? ディオビオのおかげで傷は追ったが、それでもこの場の全員を殺すことなどたやすい」
「なら私にも考えがある」
そう、私も自爆する。自爆という言葉を簡単につかtぅてはいけないかもしれない。だが、雅夫さんが現時点でいない世界なんて本当にくだらない。
それならいっそ死んで人間として生まれ変わり、雅夫さんと一緒に行きたい。
「うおおおお!!!」
私は思い切り拳で悪魔王を殴りに行く、もちろんこれだけじゃあ効かないと思う。けど、それはそれだ。隙を作らなければならない。
そして、その後に、少しでもいいタイミングで爆発する。
そう決め、隙を作るためにとにかく殴りかかる。
「ハハハ、そんなもので私の体に傷をつけられると思ってるとは、実に滑稽だな」
そう言って笑う悪魔王。完全にむかつく。けど、
「私は黙ってやられない」
「馬鹿を言うな!!」
そう言って、悪魔王は私に向けて拳をふるう。
その拳の直撃であっという間に山にぶつけられる。
くぅ、チート過ぎる。なんでこの威力の攻撃が放てるんだよ。
「ダークウェル」
そして空に闇の弾が現れ、その弾が乱れ打ちとばかりに地面に落ちていく。
これじゃあ自爆する前にこちらの体力が切れてしまう。
やっぱりぼろぼろになっているとはいえ強い。たかが女神一人で勝てる相手ではなかったのか。
絶望が私を襲う。でも、私にだってある。負けられない理由が。
雅夫さんの犠牲を無駄にしたくないという理由が。
そうだ、命を懸けるのは自爆だけじゃない。
命を燃やす方法もある。
これをしたら制限時間がある代わりに短時間だけ超パワーが得られる。勿論切れた後は死だが。
自爆よりは攻撃力が落ちるけど、仕方がない。ここで倒さないと、あいつはみんな殺す。ルティスも、山本君も、皆死んでしまう。
「はああああ」
命を燃やす。
私の周りに赤いオーラが見える。
これが私の命か。これが切れたら、雅夫さんと同じ場所に行く。
いいじゃない。その前に倒せたら、ハッピーエンドだ。
「いけえええ」
私はまず、悪魔王のもとに突撃する。
「何をしたのかは分からんが、何をしたって私には通らん」
「それはどうかな? シャインソード」
光の剣を生み出す。
「そして!」
そのまま剣先を鋭くして、槍のような形にして、そのまま突きに行く。
「シャインスピア」
一撃にすべてをかける。それしかない。
「そんなもので、やられるとでも思うのか?」
「それはやってみないと分からないよ!」
そのまま突撃する。
だが、その槍は悪魔王の手によって防がれる。
「っ、ふざけないで!」
これを防がれたら、もう終わる。このまま突き殺さないと。
そんな時に、上から黒色の稲妻が降った。上を見ると、そこにルティスがいた。
「いまよ、やっちゃえ!」
「うん!」
そのまま槍に力を込め、悪魔王に突き刺す。
先程のルティスの攻撃で怯んだ、その一瞬の隙をついて。
これが最後のチャンスだろう。周りの天使たちも、ルティス御命令で、悪魔王に光の光線をぶつけている。
「終われ!!」
そう叫ぶと、槍が悪魔王の手を貫き、そのままお腹に届いた。
だが、お腹が貫けない。そろそろ体力もなくなってきた。早くしないと、私が先に死ぬ。
「ここは……貫かせるかあ!!」
そう叫ぶ悪魔王、ああ、後少しが足りない。あとほんの少しなのに、
そんな時、今槍で突いているところの左に、傷口があることに気づいた。もしかして……ここなら!
そのまま、槍の位置を変え、傷口を狙う。たぶんさっきの雅夫さんの自爆によって生じた傷だ。
「ぬおお、そこはやめろお」
「やめない!」
その槍によって、傷口がどんどん、どんどんと開いていく。
「終われえええええええええええ」
槍が悪魔王の腹を貫いた。
「終わりだあ」
そう言った私のそばで、悪魔王は消滅した。
だが、その代償も多きようで、私もまたその場に倒れる。
「ティア!!」
ルティスが私に駆け寄る。
「ルティス、ごめんね。私はここで終わりだよ」
流石にここから奇跡の回復なんて見込めない。
私はもう終わりだ。
「私は、雅夫さんと次の世で、楽しく遊ぶよ。たぶん、記憶は戻ってはこないけど、大丈夫。私元気でやるからさ」
「そうはいったって……」
「それに雅夫さんに早く会いたいし」
「女神として、高塚君に会うっていう選択肢はないの?」
「残念ながらないよ。だって、対等な関係でいたいし……神様にそれくらいの融通は許してもらいたいね」
「たぶん許されるよ」
そのルティスの目から涙が出る。
その顔を見て、ああ申し訳ないなと思った。
「ルティス……本当にごめんね。一人にさせて」
「本当よ、馬鹿」
「うん、私は馬鹿だ。全部私のせいだから、これで終わり」
雅夫さんが最初から悪魔界からのスパイだと気づけていたら、何か対処の仕様はあったのに。
雅夫さんを悪魔と引き離して、一人のただの人間として生きさせることも可能だったのかもしれないのに。
「だから、ばいばい」
私の体がどんどんと薄くなっていく。痛みはない、痛みが無くて良かった。
これで、安らかに、死ねる。
ああ、ルティスが、ルティスの涙が止まっていないな。
「ばいばい、ティア」
そのルティスの声を最後に、私の意識は消えていった。
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