第15話 人生ゲーム

「人生ゲーム!」



 と、二人でゲームをすることとなった。


「私先行でいい?」

「ああ、いいよ」

「わかった」


 と、人生ゲームを開始することとなった。あ、でも……


「じゃあ回すね!」


 俺には嫌な予感がした。だが、今は止められん。せめて気づくのがもう少し早ければ良かった。だが、もう今となっては後の祭りだ。


「行くよー!」


 すると、マス目は一〇。このゲームでは就職出来て、その職業によって給料日にお金がもらえるのだが……ティアは唯一その仕事に就けない一〇が出たのだ。


「まあ、仕方ない。次頑張ろう」


 ティアはこのゲーム上での職業の重要性をわかっていないようだ。


「ティア、本当に職業無しでいいのか?」

「良くないけど、でも、仕方ないじゃん」

「大人だな」

「えへへ」


 と、職業無しでティアは始めることにした。ちなみに俺の職業は教師だった。給料日のたびに二〇〇万円だ。


 そして俺が危惧したとおりだが、どんどんとティアのお金が無くなっていく。

  そう、やはり最初のメダルゲームの時にも思っていた通りだが、ティアは不運の中の不運なのだ。

 もはやどうしようもない。というか、そもそも対戦中、人のことを心配する暇があるのかと言う話なのだが。


「ねえ雅夫さん」

「ん?」

「お金現実みたいに増やせたらいいのにね」

「現実でも本来増やせないんだけどな」


 とはいえ、ティアの気持ちはよくわかる。そりゃあ今の借金四〇〇万の状況だったら愚痴を言いたくなるわ。


「次回すわ」


 と、ルーレットを回す。すると、一〇が出て、イベントマスに止まった。内容はと言うと、一〇万人目のお客さんだから一〇〇万円もらえるという事らしい。


「えー雅夫さんいいなあ」

「まあ日ごろの行いだな」

「それ、もしかして私の日ごろの行いがいけないってこと?」

「ああ。もしかしなくともだな」

「私女神なのに……」

「女神の力を悪用してるからだろ」

「じゃあその恩恵を被っている雅夫さんも運が悪くないとおかしいと思います」


 うわ! こいつ俺も巻き込んできやがった。


「俺は直接使ってるわけじゃあねえからな。つーかそもそもそれは置いといても、なんでお前こんなに運が悪いんだよ?ゲーセンの時からさあ」

「それは知らないけど。逆に女神だから運が悪いのかなあ」

「まあそれはあるかもな。普通運いいはずだろみたいなキャラが運悪かったりとかなあ。アニメとかじゃああるし」


 ギャップみたいな感じで。


「ここアニメじゃないんだけど」

「アニメでもあるから現実でもあるかもなあっていう話だ」

「絶対そうだ! なら私詰んでない?」

「………………ドンマイ………………」

「うん」



 そしてティアが次のルーレットを回した。そして案の定……


「やっぱり雅夫さんとやってるゲーム違うくない!?」

「全然違うくはない」


 とはいえ、今ティアは六〇万円失ったわけなのだから本当にそんな愚痴一〇〇回言っても許されると思う。


「もう、本当に決めた。私借金王になる」

「借金王?」

「うん。頑張って借金増やす。最終的に雅夫さんの貯金と私の借金どっちが多いか勝負ね!」

「どんな勝負なんだよそれ」


 とはいえ、俺が今全財産八〇〇万円。ティアがマイナス七〇〇万円だからちゃんと勝負にはなってるわけか。


「私ガンガンお金なくしていくから覚悟しといてね」

「ああ、分かった」


 と、ティアが言ったのち、どんどんと、ティアのお金が増えていった。どうやらティアはただの不幸ではなく、かなり意地の悪い不運のようだ。


「ひどくない?」

「ああ、ひどいな。まあでもいいじゃないか、増えてるんだし」

「うん。まあそうなんだけどさあ。きっとこれから下がるんでしょ。どうせ」


 ティアはそう言って少し足をバタバタとさせた。よくわかってるじゃないか……ティアよ。


 そして案の定ティアのお金は激しく上下した。まるでそれ自身に自我があるように。ティアの思うままにいかないように上下する。


「これ……」

「ああ」

「私嫌われてるよね。神様に」

「神様と知り合いじゃないのか? 女神とあれば」


 そもそも女神に神という字が入ってるし。


「まあ知り合いだよ。でも、何か起こらせるようなことしたかなって」

「お前だったらワンチャンしてそうだな」

「してないよ。失礼だなあ、雅夫さん」


 そんな会話をしながら人生ゲームが続き、勝負は最後の二〇マスとなった。


「ここからだよ! 逆転するから」

「無理だろ」


 五〇〇〇万円差じゃあな。


「宇宙旅行行くかもしれないし、石油掘り起こすかもしれないじゃん」

「まあ、そうだな。無駄かもしれんが、お前のせめてもの運楽しみにしとくぞ」

「うん!」


 そして最後のゾーンに足を踏み入れた……まずは俺がだが。


 そして出たマスは……病気にかかり、治療費五〇万円を払うというものだった。俺も俺で変なマス止まったなあ。


「雅夫さん。ドンマイ」


 にやにやした顔で言ってきた。なんかうざい。


「お前も早く回せ」

「わかった」


 ティアもルーレットを回した。すると……


「恋人が無断でお金をギャンブルに使用……七〇〇万円失う!?」

「ティア……」


 もっと酷いマスに当たったなあ。


「ひどすぎる。私のなけなしの七〇〇万円が……」


 そう言いながらも、ティアは律儀に借金手形を棚から取る。


「まあ最後に一〇〇〇万円もらえるマスがあるからそこでワンチャンあるから」

「うん」


 この状況ティアをあやすのも大変だ。


「よし! 石油を掘り当てた! 四〇〇万ゲット!」

「雅夫さん良かったね」


 ティアって根がいいやつなんだよな。人の幸福は素直に喜べるし。


「俺俺詐欺に引っかかり、四〇〇万失う……」


 その本人は不幸まみれなんだがな。


 そして最終的に、最終マスの宇宙旅行にティアは見事行って一二〇〇万失い、俺は宝くじに当たって一〇〇〇万円ゲットした。流石にこれは……


「ティア……よくわからんけど、神様に謝ったらどうだ」

「私何もしてないよ本当に」

「そう言えば、女神と神様の関係ってなんなんだ?」

「神様はシンプルに私の上司に当たるかなあ。まあそうは言っても私職務放棄してここにいるわけだし、今も女神なのかは知らないけど」

「どう考えてもそれが原因だろ!」


 逆に明白すぎてこええ。そりゃ運も悪くなるわ。


「私の運が悪いの?」

「ああ」

「まあ別に私としては神様がどう思っていても関係がないんだけど……それに私が思うに神様って運気を操る力がないと思うんだ。だから、別の人が犯人だと思う」


 別に人か……どちらにせよ、俺には見当のつかないような偉大な人なのだろう。それこそ、俺なんて一瞬で消すことのできる人物だろう。


「まあいいや。とりあえず採算しようぜ」

「覚えてる?」


 ティアが俺の手をつかんできた。


「もし、雅夫さんの所持金が私の借金よりも少なかったら私の勝ちって」

「ああ、覚えてるよ」

「じゃあ、そういう事で……負けても恨まないでよ」

「ああ、当たり前だ」


 俺はそこまで器が狭くないしな。そして採算が終わり……


「じゃあ行くよ!」


 と、ティアが自身のお金を発表する。


「じゃじゃん!!! マイナス四八四〇万円!!!」


 えぐい数だ。ふつうこのゲームで借金終わりすらほとんどないはずなんだけどなあ。それだけティアの運が絶望的に悪かったのだろう。


「雅夫さんも早く!」


 そんなことを考えていると、早く発表するようにと、急かされてしまった。仕方ない。さっさと、現実を見せてやるか。


「俺の全財産は六八九〇万円だ」


 ゲーム用の札をピラピラと見せつけながら言った。どっちの意味でもぼろ勝ちだ。


「悔しい! 私の不運が雅夫さんの幸運に勝てなかったなんて」


 ティアは足をじたばたさせる。


「落ち着け、ティア。別にこのゲームは本来借金生活にならないように、お金を稼ぎやすくしてるんだ」


 たぶん。


「だから、別に借金額で俺に勝てなかったとして、それが当たり前なんだ」


 俺自身も何を言ってるのかわからねえ。たぶんほかにないだろ、こんな感じであやす人って……。


「だから落ち込むな!」

「うん!」


 そうして二人での人生ゲームは終わりを迎えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る