十一

「ふざけるにもほどがある」

 屋敷に戻り、人払いを済ませて徳川からの文をそのまま見せて読み終わった途端、お福が本性を出す。

 充血した目と赤くした耳から今にも机や壁に八つ当たりしそうなほど、感情を昂らせているのがよく分かる。

 やはり、飛び地だけしか貰えないことが許せないらしい。

 もらえるだけありがたい話だが、やはり現在の領地に加えて南部や秋田の領地も欲しかったのだろう。

「だが、これを受け入れなければなるまい」

 諭すように言うと見下した目を向けてきた。

「もっと加増を願わないの」

「願ったところで増える見込みがない」

「なぜ」

「平太郎のことがある」

 お福の盛大な舌打ちが部屋に響く。

 徳川は全面的に協力した伊達などに対して多少の加増しかしなかったと聞く。

 津軽の場合、為信の嫡男、信建が西軍にいたことを理由に跳ね返されるのは分かっていた。

 だが、最後の好機と見ていたお福の欲は想定よりかなり深かった。 

「はぁ……まぁ、良いわ。まだ、終わったわけではない」

「と言うと」

「徳川の時代になるでしょう。でも、まだ完全に安寧が訪れたわけではない。機を見て動くのよ」

 お福がいつもの不敵な笑みを浮かべる。

 しかし、織田や豊臣の顛末を間近で見てきた徳川が同じような轍を踏むような愚か者ではない。

 為信は根拠もなく彼女の言う通りだと判断して「わかった」と頷く。

「しかし、本当に上野だけなのね」

 書状を何度も読み返している。だが、これが現実であるということを受け止めなければならない。 

「息子の命を助けた故、これぐらいは当然ということだろう」

「狸と言われている理由。警戒していたけど、身を持って知ることになるとはね」

「だが、今になって平太郎を斬るとは言えぬ」

「ええ、そんなことをすれば流石に家臣たちから疑われるわ。けど、今になって太閤に媚びを売っていたのが忌々しく思う」

 お福は忌々しそうに爪を噛み、貧乏揺すりを繰り返す。

「徳川に睨まれるけど、少し考えないとね」

「ゆるゆるとな。幸い、俺たちは東軍西軍の中で大垣城以外の目立った活躍はしていない」

 水野から家康には必ず武功を伝えると言っていた。

 あの男は単純そうだったため、必ず伝えただろう。

 陸野の大名がほとんど東軍とも誼を通じていたとすればもらえる領地も限られるのだからもう諦めるしかない。だが、お福のためならもう少し動くべきなのだろう。

「一先ずは家のことだ。平太郎も色々と動きを共にしてもらおうと思うが、どうか」

「そうね。とりあえず跡継ぎだから、それらしいことをさせましょう。そうすれば誰も疑わないわ」

 お福は一旦、口を休めるために溜め息を吐く。

「今回の処置と平太郎のこと、聞けない」

「近々、徳川の勝利を祝うために行かねばならん。その時にそれとなく聞いてみる」

「勘繰られないようにね」

「わかっている」

 お福は話が終わったと外に視線を向けるが、言わなければならないことがあると為信から口を開く。

「一つ告げねばならぬことがある」

「なに」

 言うなら早くしろと疲れた目で彼を見てくる。

「平太郎が治部殿の息子を送ってきた」

 お福の目が眉に届かんばかりに見開かれる。

「平太郎の奴。馬鹿じゃないの」

「どうする。すでにこの城まで来ているが」

「今さら突き返しても、首を跳ねて献上してもあらぬ疑いを被るわね。畿内でさっさと処分してくれれば良かったものを」

 お福は天を仰ぎ、首を横に振る。そして、爪を噛みながら部屋を歩き回る。

 十周ほどしたところで、諦めたと溜め息を吐いた。

「認めましょう。当然、名も変えてもらうけどね」

 為信は心底安堵する。

 徳川に対する恩義は大きい。だが、三成のことはそれ以上に信頼していた。だからこそ、西軍に付きたいと思い、お福に叩きのめされた。

 だが、人の感情は一度打ちのめされてもなかなか上手くいかない。

 再び、三成のためになるなら身を賭してでもそれを支えたいと心が言っている。

 そのようなことを言えば、またお福からの折檻を受けることは分かっている。一度、決心したにもかかわらず、邪魔をしてくる思考はかつて捨てたはずのもの。

 良くも悪くも動いたが、多くの者の心を動かした三成はやはり優れた者だったのだろう。

「平太郎にはまだ会ってないの」

「城外に件の者を迎えに行っている」

「早く呼びなさい。色々と聞くわよ」

 お福は先に出迎えるための広間に向かってしまった。


「父上、母上、此度の件、多大な配慮をいただき、真に恐悦至極にございまする」

「面を上げい。お主こそ、毛利、石田での働きご苦労であった」

 為信が息子を労うが、お福は構わずに本題を切り出す。

「時に、石田殿の息子を連れ帰ったと聞きましたが」

「止むに止まれず。石田様にはよくしていただいた故」

「それが御家にとって不利になることでも」

「いざとなれば責は某が負う故」

「殿と石田殿が昵懇であったこと、そなたも知っておろう。下手をすれば、御家で疑われるやもしれぬ」

「そうはならぬよう、ご子息殿は十分に匿う手立てを取りまする」

「如何ように」

 詰問が続く中、為信は内心、穏やかで通しているお福の感情がいつか暴発してしまうのではないかと落ち着かなかった。

「名を変え、牢人として召し抱えたことにすれば良いかと」

「牢人を召し抱えた理由はいかにいたす」

「領国を守る兵が足りずにやむなきことと」

 信建は正当性のある理由を返すため、さすがのお福も何も言わずに為信を一瞥する。会話の主導権を返すから勝手にやれという合図だ。

「石田殿の御子息はご無事か」

「はい、共に無事にございまする」

「共に」

「はい。御子息、御息女共に」

 為信はお福と顔を見合わせる。

「某は息子のことしか聞いておらぬが」

「御息女も連れて参りました」

「ふむ……」

 三成の子供を二人も匿う。

 徳川から疑いの目を持たれることは確実だが、知らぬ存ぜぬを通せば何とかなるだろう。

 お福が許せばの話だが、眉間にしわを寄せ、明らかに不機嫌さを露わにしている様子を見るとこれから口にすることが目に見えている。

「かような行為が許されるとお思いか」

「万一のことがあれば、某が全てを負いまする。父上、母上が知らぬよう、某の一存で匿ったと」

「それが徳川に通じるとでも」

「いざとなれば、腹を切る覚悟です」

 信建は真剣な表情でお福を見る。対するお福は咎める目を納め、何やら考えているように視線を落としている。

 どのような決断を下すのか。

 不安を押さえるようにじっとお福の顔を見る。

「父上、父上はいかようにお思いか」

 いつの間にか信建の視線がこちらに向いている。

 胸が高鳴ったが、表情に出すのを堪える。

「うむ……」

 全く頭を使っていなかったため、焦りが生じる。

 信建は当然、二人の真の関係性には気付いていない。為信が決断すればそれが津軽の総意として認められ、妻の意見など揉み消されると思っているだろう。

 お福の視線もこちらに向けられている。表面上は穏やかだが、内側では意向をくめという思いが伝わってくる。

 三成への恩義を思えば信建を立てるべき。だが、自分の真の立場はお福の下で津軽のために動くこと。息子からの失望などお福との契約に比べればどれほどの価値があろうか。

「治部殿の御子息と御息女は、追放せよ」

「父上」

「津軽存続のためだ。これよりは徳川の天下。毛利殿や治部殿には処罰が下されるだろう。その家族を匿えば、我らは住む地を失う」

「そんな……」

「平太郎、殿のご意向じゃ。謹んで従うのが道理である」

 拳を強く握る信建を置いて、二人は部屋へと戻る。

「決断を述べるまで随分と迷いがあったわね」

 戸を閉めるや否や、不機嫌な声が背後からかかる。

「平太郎の必死さと治部殿からの恩を思うとな……」 

 背中に激痛が走る。

「ったく、くだらない情に振り回されてるんじゃない」

 お福は乱れた裾を直すと立膝を着いて座る。

「ま、平太郎の訴えを退けたから、それで良しとするわ」

 はたして本当にこれで良かったのだろうか。おそらく三成にもあの二人のことは伝わるだろう。それ以前に大きな問題がある。

「あの二人をこの地まで連行したことについては、いかに徳川に申し開くか」

「平太郎が石田への忠義から連れて来たけど、徳川への忠義の証として引き渡す。これで納得してくれるでしょう」

 為信はそうだなと頷き、紙と筆を取る。

 三成には申し訳ないが、徳川と石田で双方に天秤をかける安全策を取り、勝敗を決した今、津軽を後世に生き残る術を少しでも残しておかなければならない。

 とりあえず、為信は頭の中で徳川を称賛する言葉を並べ、文章の順番をどのようにするか考える。

 しばらくして顔を上げるといつの間にかお福の姿が消えていた。外を見るとすでに日が傾いており、体のあちこちも固まっている。肩や首を回しているとにわかに外から足音が聞こえてきた。

「殿。若様がお見えにございまする」

 おそらく兵のことだろう。書状のきりも良いところだ。

「すぐに通せ」

 すぐに信建が入ってきて、神妙な顔つきで座る。

「某が連れた兵を全て解散させました」

「ご苦労だった。彼らの働きにも応えなければな」

「父上、石田殿にございまするが……」

「身柄は押さえたのか」

「……出家なさると仰っております」

「何だと」

 石田重成はこれ以上徳川に刃向かわずに世俗から脱すると知らしめるということだろう。だが、出家した後に神輿として担ぎ上げられる可能性もありえる。

 かつて室町幕府の将軍の座を争っていた時のように。

「有無を言わさず送り返せ」

「それはあまりに非道では」

「構わぬ。津軽を守るためだ。お前が出来ぬと言うのであれば、俺がやる」

「……分かり申した」

 信建は納得がいかないと眉間にしわを寄せて部屋を辞そうとする。

「某より母上の言を取られるのですね」

 彼が去り際に放った言葉に思わず怒りで膝を立てたが、すぐに止めた。

 信建の言う通り、自分はお福の意見を取り、三成への恩を仇で返そうとしている。

「お前もこの家の跡継ぎ。分かっても分からぬことを受け入れねばならぬ」

「無論、分かっておりまする。されど……」

「如何した」

 為信は悩ましく口を噤む信建を促す。

「父上。何故に本意より母上の考えを取るのか。何故に」

 確信めいたものを抱いた真っ直ぐな視線が為信の体を撃ち抜いたように感じた。

 今度は為信が答えに窮する番になった。

「福の考えが良いと思うたからだ」

「此度のことだけではなく、今までのことも含めてにございまする。何故に、父上は母上の考えを取るのでしょう」

「俺にはお前が言っていることの意図が読めぬ」

「……直ちに支度をして参りまする」

 言うだけ言って信建は部屋から去って行った。

 為信は残された部屋で腕を組む。彼はお福との関係を悟っているのだろうか。これまで息子の前でそのような失態を演じたことがあるのか思い返す。

 だが、これといった心当たりが全く見当たらない。信建には嫡男として厳しい環境にあったこの津軽の地を守っていってほしいという思いから公私混同をはっきりとさせてきた。

 豊臣秀吉の実子である秀頼が生まれてからは彼の下に遣わして、豊臣への忠義と畿内で諸将と交流させた。

 結果として烏帽子親となったこともあってか、自分と同様に三成と昵懇になり、石田方となった。

 もしかしたら子供の頃にどこかで偶然見てしまったのかもしれない。二人でいる時は常に細心の注意を払うようにしていたが、首を捻り、唸る。

(福に聞くのも気が引けるし……様子を見る他ない。か)

 残された部屋に盛大な溜め息が響いた。

 それを合図のように襖が無断で開かれる。

「終わったね」

「ああ。何とかな」

「納得してはくれていないようね」

「無理もない」

「忠義に殉じて何が良いんだか……あ、それよりも言い忘れていたことがあってね」

「なんだ」

「時を見て、南部を滅ぼす算段を付けておきなさい」

「まだ戦い続ける気か」

「文句でも」

「いや……」

 徳川が乱世に舞い戻るような政治を行うとは思えない。

 まさか、自分に九戸のようなことをしろと言うのではないだろう。

「忘れたとは言わせないわ。私達の目的を」 

 北奥羽。具体的には南部の領土を取り込み、二人で国を支配する。それは確かにそうだ。だが、豊臣が天下を統一し、徳川が豊臣家中の対立を収めた。

 あるとすれば、幼い秀頼の上に立つ家康を危険視した者達が動くぐらいか。はたしてそれがいつになるのか。 

「……分かった」

 口にはしないが、為信の心は年々燃えるものが無くなってきた。

 つまり、そういうことなのだろう。

 福が去り、一人になった部屋で為信は外を見ながらため息を吐いた。


 その後、為信の下に徳川から正式に上野の一部を加増させる旨の書状が届いた。

 東北では一部で豊臣の行った仕置で改易された元大名らが蜂起し、津軽でも反乱が起こったが、全て鎮圧された。

 為信は領国内の混乱や戦後処理を終えるとすぐに家康に謁見するため、大坂へ向かうべく信建と共に津軽を発った。

 家康が江戸に戻り次第とも考えたが、信建のこともあるため、なるべく早い方が良いだろうと判断した。戦勝祝いに向かうことはすでに使者を遣わし、祝いの品も用意しているため、問題ない。

 大坂城に着くと家康のいる西の丸に通され、約束通りの時間に面会することが出来た。

「面を上げよ」

 家康の顔は以前に見た時よりしわが増え、随分と老成したように感じられる。

 政敵であった五大老や五奉行の一派を屈服されたのが彼の中で何かの一区切りとなったのであろう。

「此度の勝利、心よりお慶び申し上げまする」

「うむ。右京大夫殿も大儀であった」

 家康は自分の複雑な心境をよそに笑みを浮かべる。

 津軽は豊臣によって独立した大名として認められ、そのために三成が色々と手を尽くしてくれた。

 お福の折檻を受けていなければ今頃自分は信建に家督を継がせ、頭を丸めて謝罪をしなければならないところだっただろう。飛び地の領地も増えなかったかもしれない。

 御家のため、お福のため。

 そう言い聞かせつつもいつからか心が乱れるようになってきた。

 自覚がなかったわけではない。ただ、よくある誤差の範囲だと思っていた。

 出過ぎだと折檻を受けたとしても全てお福が正しいと思ってきた。だが、腹は満たせても心が満たせたか。

「右京大夫殿、貴殿にはすでに文にて伝えてあるが、上野に新たな領地を与えることと相成った。これからも秀頼様のことを皆でよく支えていくため、力を貸してくれ」

「はっ」

 本当に心から豊臣を支えようとしているのだろうか。

 秀頼はまだ幼く、実母である茶々の庇護下にある。秀吉の正室である北政所は関ヶ原の後に家康になびいているらしい。

 東国の大名の大半は言うまでもなく、畿内から西国にかけても福島、加藤、黒田ら豊臣恩顧の大名らが徳川に付いた。

「宮内殿」

「はっ」

 為信は密かにつばを飲む。

 家康の差配によっては、御家の方針を考えなければならない。

「貴殿が秀頼様のお付き故に大坂城にて治部から指図を受けていたことはやむを得ぬことである」

「某が無力故、徳川様に盾突くことになったこと。誠に遺憾に思いまする」

「良い。先程も申した通り、貴殿は秀頼様にお仕えしている身。此度のことはやむを得ぬことである。これからは右京大夫殿と共に、力を貸してほしい」

「ありがたく存じまする」

 為信は信建と共に頭を深く下げる。

 これで一番の憂いは解決された。後は信建を跡継ぎとして一人前にするために鍛えていけば津軽も安泰である。

「おお、そうだった。一つ言い忘れていたことがある」

「はっ。何なりと」

「服部のことについてだが、よくよく伝えておいてほしい」

「服部。でございまするか……」

 服部太左衛門はかつて牢人だったが、為信が召し抱えた武将である。

 さして記憶されるようなことをしていただろうか。

「大垣にて大層な活躍をしたと聞いておるが」

 必死に記憶を探る。

 大垣城での戦いの際、大将の水野に策を献じた後、ほとんどは高みの見物をしていたため、これと言った配下の活躍が思い出せない。

「六左衛門(水野勝成)より聞いたのだが、あやつの誤りであるか」

「いえ、滅相もない。よくよく褒美を取らせまする」

「うむ。ぜひ会ってみたいのだが、良いか」

「はっ。実は此度の上洛に際し、彼の者が付き従っている故、すぐでも呼べまする」

「そうかそうか……それは僥倖。わしはいつでも良い。早う会いたいと伝えておいてくれ」

 そのまま会見は終わり、あてがわれた部屋で二人きりになると眉間のしわを緩めた。

「何とかお許しいただけたな」

「腹を切る覚悟はしておりましたが」

「何はともあれ、お前は俺の跡を継ぐことが認められた。それだけでも十分だ」

 津軽という家は守ら、信建の身元も保証された。それだけでも十分な成果だ。

「それより、何故に徳川様は服部のことを気にかけておられたのでしょう」

「全ては分からぬが、あやつを徳川殿が気にかけるほどの者なのか」

「父上、大垣城にて戦ぶりを見ていたのでは」

 印象に無いことなど言えず、眉間にしわを寄せて口を噤むしかない。

 水野が家康に称賛の言葉を送るほどに素晴らしい戦いをしたのであれば、主である自分に何故報告が来ないのか。

 こちらへ報告するのを忘れたのか。それなら、先に家康から届いた書状に派とのことが書かれていないのは何故なのか。

 家康、もしくは右筆が書き忘れたというのはあまりにもお粗末過ぎる。

「はめられたな」

「は?」

 何でもないと信建を制する。

 服部は有能である。ただでさえ津軽のように最北端に来たいと思うような人材などいない。

 来たとしても伊達や最上など由緒正しき、大大名に取られる。

 偶然見つけた良い人材だと思っていたが、まさか家康の回し者だったとは。

 だが、そう考えると家康が豊臣を守るという前提も怪しくなってくる。おそらく、伊達や最上といった大大名も警戒こそされども内部に間者を置くようなことをされているとは思えない。南部とてそうだろう。

 三成と近しい関係だった為信だったが故か。ましてや、彼を召し抱えたのは秀吉が死ぬよりも前である。これで家康が豊臣を守ると言ったことを信じるのが無理な話だ。

 以前から情報が筒抜けだったのか。

 すぐに服部の身柄を押さえて屋敷内を検めたいが、証拠を残しているとは思えない。

 だが、一つだけ喜ばしいこともある。

(治部殿の子達はどうしようとも構わないか)

 服部が津軽の内情を観察しているのであれば、家康も三成の子供達が津軽でどのような状況なのかも知っている。

 後は福への説得だが、どうとでもなるだろう。

 自分が折檻されて、三成の子供達を守れるなら安いものだ。

「平太郎、服部を呼んで参れ。明日のことを伝える」

「はっ」


 後日、為信は福に家康から捕虜とした者は全てこちらに任され、良きに計らうよう伝えられたと報告した。

 これには福も肩をすくめるしかなく、結果として石田重成らは処断を免れ、杉山源吾と名を変えて隠棲した。その後、程なくして亡くなったとも、津軽家に仕え、江戸時代前期の藩政を支えたとも言われている。

 また、娘である辰姫は後に為信の三男信枚に正室として嫁いだ。夫婦仲は良好だったものの、紆余曲折を経て、側室へと降格。上野に移り住み、生涯を全うしたとされている。

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