第39話

「本当に嫌だったら断ってくれてもいいんだよ?」

顔を覗き込まれドキッとする。あれこれ私に内緒で作戦なんて考えるのに、最終的には優しいからずるい。

「いや、やりますよ。1度OKしたからには頑張ります。」

「そう?よかった、文化祭今から楽しみだね。」

深瀬先輩はそう言って微笑んだ。あいかわらず私はその横顔から目を離せずにいる。いつになったら慣れるのだろうか。ごまかすように私は深瀬先輩の言葉に相槌を打った。


「あれ、深瀬先輩じゃない?」

翌日の昼休みが始まった少し経った頃、小春がお弁当箱を広げながら教室のドア辺りを指さした。私もつられてドアに目をやると、深瀬先輩が立っていた。手には購買のパンを持っている。

「美恋ちゃん、ちょっといいかな?」

呼ばれるがままに近づいていくと、教室中の視線を感じる。ついでに小声だけどクラスメイトの声まで。

「3年生かな?格好良くない?」

「ね、梨野さんとどういう関係なんだろう?」

いたたまれなくなり深瀬先輩を廊下に連れ出す。廊下は購買に行く生徒やら食堂に向かう生徒やらで混みあってザワザワとしている。

「どうしたんですか?1年の教室まで来て。」

「文化祭のこと、去年の流れとかも共有しといた方がいいかなって。」

「わかりました。じゃあ、中庭でお昼一緒に食べませんか?人も少ないですし。」

「わかった、先行ってるね。」

深瀬先輩を見送った後、お弁当をとりに教室に戻る。すると、クラスメイトの女子が話しかけてきた。

「ねね、今のって梨野さんの彼氏?」

「えぇっ⁉違うよ、部活の先輩。文化祭のことで相談があるらしくて。」

「そうなんだ、格好良いし仲良さそうからてっきりそうなのかと思った~。」

クラスメイトにとっさに彼氏ではないと嘘をついた罪悪感を胸に抱えながら小春のもとへ帰る。説明すると、小春は快く送り出してくれた。

急いで中庭に向かうと、先にベンチに座っていた深瀬先輩が私を見つけて微笑んだ。ドキドキしながら隣に座る。いつも電車で一緒に帰る時の距離感で肩が触れ合いそうだ。

「えっと、それで文化祭の話って?」

尋ねると、深瀬先輩はパンの袋を開けながら言った。

「まずはごはん食べちゃおうか。その後ゆっくり話そう。」

「そうですね、じゃあ、いただきます。」

両手を合わせてからお弁当箱を開ける。文化祭の話があるとは言え、校内で深瀬先輩と2人きりになって話すことができるなんて役得だ。

たこさんウインナーを口に運んでいると、深瀬先輩からの視線を感じた。何かと思い横を見上げると、やはり私の方を見て微笑んでいた。

「あの…、なんでしょうか?」

見られていることにいたたまれなくなって声をかける。

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