第38話

深瀬先輩の思い付きは、次の部会で分かることとなった。

「じゃあ宿題にしてたアイディア出ししようか!何かある人~?」

以前とは違い、ちらほら意見が出てくる。去年と同じカップケーキやクッキー、クレープなど簡単にできるスイーツから文化祭では定番の焼きそばやフランクフルトなどおかず系も出揃った。大体の意見が出た頃合いで、深瀬先輩が口を開いた。

「俺が考えたのは、食べ物モチーフのクッキー。アイシングで例えば目玉焼きをかいてもいいし、もっと簡単なものならスプーンとかフォークのクッキー型を買ってきて焼くだけでもいいし。これなら初心者でもいけるかなと思ったんだけど、どうかな?」

「え!めっちゃいいじゃん。ほかのクラスとか部活とかとも被らなそうで、調理部ならではっぽいし。皆はどう?」

鈴木先輩の問いかけに、皆それぞれうなずいたり拍手をしたりして賛成の意を示す。

「じゃあ今年のテーマは食べ物モチーフのクッキーに決定!リーダーは2年連続になるけど、発案者の力ちゃんでいい?」

「俺はいいけど、ヒントになった子がいるからその子に副リーダーになってほしいな。」

「その子がよければいいよ!誰なの?」

深瀬先輩の言葉にまさか、と思う。結論から言うと私の予想は当たってしまった。

「美恋ちゃんだよ。美恋ちゃんのヘアクリップで思いついたんだ。」

部員から注目を浴びると、本当だという声が上がった。ちなみに今日はスマイルポテトのヘアクリップを付けている。

「美恋ちゃん。副リーダーの件、どうかな?」

深瀬先輩に聞かれ、言葉に詰まる。不器用な私なんかに副リーダーが務まるだろうか。人前はあまり得意ではないし…。さまざまな不安が頭をめぐるが、最終的には深瀬先輩の頼みということで腹をくくって返事をした。

「私でよければ、お願いします。」


「深瀬先輩。なんで先に言ってくれなかったんですか!副リーダーの件も…。」

今日は都合が合い一緒に帰ることになった帰りの電車の中で深瀬先輩に聞く。私の問いに深瀬先輩はいたずらっ子のように笑ってしれっと答えた。

「だって先に言っちゃったら美恋ちゃん絶対断ると思って。作戦だよ。」

「それはそうですけど…。ずるいです。」

「でもOKしてくれて俺は嬉しかったよ。文化祭まで美恋ちゃんと一緒にいられる口実増えたしね。」

「まさか、それも作戦ですか?」

「そこまで考えてなかったけど。結果的に一緒にいられるんだから俺は嬉しいよ。」

ニコニコした顔で平然と返されがっくりとする。深瀬先輩といることが増えてから、完璧で大人っぽいと思っていた面が崩れつつある。彼女特権と考えるとまあ、悪い気はしないけど。

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