第11話

ドアが閉まり、だんだんとスピードを上げていくため電車が揺れた。その振動で、隣に座る深瀬先輩と肩が触れる。幾度と経験しても慣れない。

「入部前から何回も会ってるからすっかり調理部員な気がしてたけど、今日からやっと正式に部員なんだね。」

深瀬先輩が言ってから、私の方を見て笑った。その笑顔でさらに私の鼓動は増す。

「そ、そうですね。これからの活動楽しみです。」

「今年は文化祭終わったら引退だから、あと半年くらいか。最後まで美恋ちゃん達と楽しみたいよ。」

引退という言葉にあばら骨のあたりがきり、と痛んだ。わかっていたことだけど、あと半年もすれば深瀬先輩は部活を引退して接点がなくなってしまうことを再認識して気分が沈む。

「あれ、梨野さん…と深瀬先輩?」

名前を呼ばれて顔をあげると、スポーツバッグを肩にかけた島田君が目の前に立っていた。隣の車両はこちらよりも混んでいたため、移動してきたのかもしれない。

「有君、この路線だったんだ。」

驚いたような深瀬先輩の言葉に島田君は大きくうなずく。

「そうっす。もう次の駅で降りるんですけどね。」

「そうなんだ。お家近くていいなあ。」

私の感想に、島田君はまた白い歯を見せる笑みを浮かべた。

「まあ、近いのは楽だけどほかの駅に寄り道とかできないからそこはちょっと残念だな。あ、もう着くからまたな。深瀬先輩もお疲れ様でした!」

そう言いながら開いたドアから出ていき、ホームを走る姿が見えた。嵐のように去っていった島田君を見ることもなしに目で追っていると、深瀬先輩が口を開いた。

「調理部は部内恋愛OKだからね。」

突然飛び込んできた恋愛の話に、私は驚きのあまり手に持っていたスマホを落としてしまった。あわてて拾ってから深瀬先輩に反論する。

「なんですか急に。私、別に島田君が好きとかじゃないですよ!」

「あれ、そうなの?ずいぶん目で追ってるからそうなのかと思って。」

そしてまた子供のようにいたずらっぽく笑う。その笑顔になんだか仕返ししたくなって、勇気を振り絞って決定的なことを言ってみる。

「でも、部内恋愛アリならよかったです。私、好きな人が部内にいるので。」

恥ずかしくて深瀬先輩の顔が見れない。調理部の男子部員は深瀬先輩と島田君しかいないはずだ。つまり、ほとんどこれは告白じゃない?今になって自分の大胆さに呆れてしまう。

「そうなんだ…」

深瀬先輩はそうつぶやいたきり景色を目で追っているだけになった。少しは意識してくれたのかもしれない。そうだと嬉しいな、なんて考えながら私も窓の外の景色をぼーっと見つめていると、いつの間にか最寄り駅に着いたためシートから立ち上がる。

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