第12話

「深瀬先輩、着いたのでここで失礼します。」

「ああ、うん。気を付けて帰ってね。」

私の声に顔をあげた柔和な笑顔はいつもの深瀬先輩だった。ホームに降りると、背後でドアが閉まったのが風圧で分かった。遠ざかっていく電車を見ながら、私は自分が放ってしまった爆弾発言に一人心の中で悶えた。


「ええ、そんなこと言っちゃったの!美恋結構大胆だね!」

翌日の放課後、部活がない私たちは食堂で軽食をとりながら恋バナに話を咲かせていた。驚きのあまり大きな声になった小春を慌てて抑える。放課後の食堂で人が少ないとはいえ、どこから話が漏れるかわからないから困る。

「声が大きいって。なんであんなこと言っちゃったんだろう…。」

言いながらテーブルに突っ伏す。いつもドキドキさせられてばかりで悔しいからって、なんて大胆な発言を…。後悔の波が私を襲う。

「もう言っちゃったものはしょうがないから、深瀬先輩に意識してもらうのを願うしかないんじゃない?」

小春が口の横に手を添えて小さな声で言う。その言葉が正論だということも、自分が言ってしまったことが悪いということもわかっているけど、私はしばらく机に突っ伏したまま起き上がることができずにいた。

「美恋ちゃん?具合悪いの?」

頭の上から突如降ってきた声に顔をあげると、手に財布とペットボトルの紅茶を持った鈴木先輩が心配そうな顔をして私の顔を覗き込んでいた。私はあわてて姿勢を正し、鈴木先輩に弁明する。

「いや、大丈夫です!ちょっと、自分の爆弾発言に反省してたというか…。」

「そう?大丈夫ならいいけど、爆弾発言って何言っちゃったの?」

鈴木先輩の純粋な疑問が痛い。いたたまれずに答えるかどうか悩んでいると、小春が横から助け舟を出す。

「いや、ちょっと恋愛関係なので先輩には内緒です♡」

「え~、なおさら知りたいんだけど!力ちゃんと何かあったの?」

自分を落ち着かせるために飲んでいた緑茶を思わずぶっと吐き出してしまいそうになった。何とかこらえて鈴木先輩を見るとにこにこというよりニヤニヤという擬音が合いそうな笑顔で私と小春を見ていた。

「やっぱりそうなんだ~。お姉さんに教えてみ、人生経験は2人よりあるよ~。」

「その前に、なんで深瀬先輩だって思ったんですか?」

緑茶でむせている私の代わりに小春が聞いてくれる。

「ええ、そんなの見てればわかるよ。美恋ちゃん、全然力ちゃんとほかの男子に対する反応違うもん。昨日の島田君とのやり取りで確信した!」

鈴木先輩は私の隣の空いている席に座り、心底楽しそうに口角をあげた。聞くまでは戻らない、そんな空気を感じた私は観念して事の顛末を話すことになった。

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