第7話
「力ちゃんの使ってる線はそこまで混まないんでしょ、羨ましいよ!」
そう言って鈴木先輩が深瀬先輩の肩を軽くグーパンチする。深瀬先輩は怒るわけでもなく笑いながらやめろよ、なんて言っている。2人が仲良くしている姿を近くで見ていると、モヤモヤする気持ちが生まれてくる。深瀬先輩が誰と何をしようが、私には口出しする権利なんてないのに。それでも鈴木先輩を羨ましいと思ってしまうのは、やっぱり私は小春が言う通り深瀬先輩が…。
「2人は仲いいんですね!付き合ってるんですか?」
小春の私にとってはタイムリーかつストレートな質問に鈴木先輩が殴る手を止めて答える。
「違うよ、それはないない。クラスも部活も一緒だから友達だよ!ね、力ちゃん?」
「そうだね、付き合ってないよ。俺彼女いないし。」
その言葉に胸の中にあったモヤモヤがすっと軽くなり、その代わりに喜びが顔を出してくる。これはもう、認めざるを得ない。私は深瀬先輩を憧れ以上の目で見ている。つまり、好きなんだ。まだ出会ったばかりとか何も知らないのにとか色々と考えるべき点はあるのかもしれないけど、今の胸の高鳴りが答えを示している。
4人でひとしきり話していると、空がオレンジ色を帯びてきた。吹く風が少し冷えてきて、夜が近づいているのを感じたところでお開きとなった。各々店内のごみ箱にごみを捨て、駅へ向かう。
前を歩く先輩2人に聞こえないように、小春に小さな声で話しかける。
「あのさ、小春。昼休みに言ってたこと撤回する。」
小春は最初何を言っているのか理解できないという顔をしていたが、数十秒後にぱあっと笑顔になる。
「憧れじゃなくて、好きってことだよね?」
小春の確認に、こくりとうなずく。すると小春は私の手を取って言った。
「応援するよ!今日、また一緒に帰れるんじゃない?」
「だと嬉しいけど…。」
「素直になった美恋かわいい!頑張って!」
「うん…。頑張ってみたい。」
こそこそ話をしながら改札に入ると、鈴木先輩が振り返った。
「今日はありがとね!話せて楽しかった!」
「こちらこそ楽しかったです。」
同じ沿線を使うらしい小春と鈴木先輩と別れる。必然的に深瀬先輩と2人きりだ。
「じゃあ、俺らも帰ろうか。」
「は、はい…。」
深瀬先輩が私の歩幅に合うように、長い足をゆっくりと動かし歩いてくれる。それだけのことが嬉しくて、胸がきゅうとなった。
2人でホームに降りると、ちょうど電車が滑り込んできたところだった。乗車すると、ちらほら席が空いていたので並んで座る。右隣に深瀬先輩がいることで、少し触れる右肩や右腕が熱い。自覚すると何気ないことさえ意識の対象となってしまう。
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