第2話

新学期に行う健康診断や部活動紹介が終わると、いよいよ部活見学の期間がやってきた。放課後が始まると待ってましたと言わんばかりに小春が隣の席から話しかけてくる。

「部活見学今日からだよね!家庭科室一緒に行こうね!」

行く前から興奮している小春に半ば引っ張られるような形で教室から連れ出される。私もそれなりに楽しみにしているけど、楽しみ度は小春の方が大幅に高いのだろう。スキップしそうな足取りで家庭科室がある特別棟へ移動していく小春についていく。どの部活も新入生獲得に向けて張り切っているようで、特別棟へ行く途中でも幾度か勧誘の声をかけられたりチラシをもらったりした。小春はのらりくらりとかわしていたが、無駄に真面目な私はそれらを全部受け取ってしまっていたため、家庭科室に到着したのは部活開始時間からかなり時間が経ってからだった。

小春が緊張をするそぶりも見せず家庭科室のドアを勢いよく開ける。

「調理部の見学してもいいですか~?」

その声とドアの開いた音に室内にいた男女数人の生徒が振り返る。皆ジャージ姿にエプロンをしているため、学年はわからないがおそらく先輩だろう。一番小柄な女生徒が駆け寄ってきて快活な笑顔を見せる。

「もちろん!1年生だよね、私は部長の鈴木華すずきはな。ゆっくり見ていってね!」

まくしたてるように話すと、手招きしながら鈴木先輩は踵を返して家庭科室内に入っていく。そのあとについていくように室内に入ると、入学式の日にかいだようなバターの甘い香りが鼻をかすめた。黒板に新入部員歓迎!という文字とクッキーの分量、それに作り方のコツが書かれているから今日はクッキーを作っているのだろう。教室の隅に置かれた見学用の椅子に座りながら、先輩方が作っている様子を見させてもらう。皆慣れもあるだろうが要領がいいのだろう、オーブンの中の様子を見る係と洗い物係、それにラッピングの準備をする係なんかに分かれて活動している。その様子をワクワクしながら見ていると、1人の男子の先輩が話しかけてきた。

「調理部、入る予定なの?」

顔を上げてその人の顔を見ると驚きで息が止まりそうになった。入学式の日の帰りの電車で隣に立っていた男子生徒だ。家庭科室の奥の方に立っていたから今まで気がつかなかった。

「はい!そのために見学来ました!」

小春が初対面の先輩にも臆することなく元気に答える。私もあわててうなずく。

「そっか、新入生が入るのは素直に嬉しいよ。俺、3年の深瀬力ふかせちから。一応副部長だから、何かあったら聞いてね。」

クラスの男子とは違う大人っぽい物腰柔らかな話し方と笑顔にドキドキしてしまい、私はまたうなずくことしかできなかった。

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