先輩、キャンディをどうぞ。
すあま
第1話
桜が春風に舞って空を自由に飛んでいる。体育館で高校の入学式を終え、教室に向かう途中の渡り廊下でふと空を見上げて気がついた。これから始まる新しい学校生活に、おろしたての制服の下で胸が躍っているのが自分でもわかる。まだまだ慣れない校舎を歩き、自分の教室に入って席に着くと、隣の席に座っていた女生徒が話しかけてきた。
「ねえねえ、部活どこ入るとかもう決めてる?」
突然の質問に面食らったものの、朗らかな笑顔が目に入ると少し安心した。悪い人ではなさそうだ。
「調理部にしようと思ってるんだ。去年の文化祭で食べた動物のカップケーキに憧れてて、自分もああいうの作れるようになりたいなって。」
答えると、女生徒の目がキラキラ輝きだす。
「え!私も調理部入ろうと思ってたんだ、お菓子作るの好きだから。声かけてよかった~。部活見学始まったらさ、一緒に見学行こうよ!」
明るい声が私を包む。お互いの名前も知らないのに、一緒にいると楽しそうな子だ。仲良くなれそうな気配を感じる。
「もちろん、一緒に行こう。私、
こちらから自己紹介をすると、思い出したかのように女生徒も同じように名乗る。
「私は
人懐っこい笑顔を浮かべた小春が言ったところで、担任が教室に入ってきた。とりあえず会話をいったん終了して、初めてのホームルームに集中する。
ホームルームが終わり、今日は解散となった。小春が一緒に帰ろうと誘ってくれたので、駅までの道を一緒に歩く。小春はとにかく元気な子で、一緒にいると楽しかった。電車の沿線が違うという小春と改札に入ってから別れ、新品の教科書がたっぷり入ったリュックサックを前に背負い直しながらホームに滑り込んできた電車に乗り込む。今日は近場の高校も入学式だったようで、自分と同じように真新しい制服に身を包んだ高校生たちが多く乗っていた。息もできないくらいとまではいかないが、それなりに乗車率は高く隣に立つ人と肩がぶつかるレベルだ。人混みがあまり得意ではない私がげんなりしていると、隣から何か甘い香りを感じた。香水やボディミストの香りではなく、これはバターの香りだ。ふと隣を見ると、私よりゆうに10センチは身長の高い同じ制服を着た男子が立っていた。センター分けされたサラサラの前髪からは、形の整った眉とまつ毛の長い大きな瞳がのぞいている。どうやら隣に立つ男子生徒の手に持っている紙袋から香りは漂っているようだ。焼きたてのクッキーか何かだろう。甘いものを食べることが好きな私は味を想像しながら電車に揺られた。香りのおかげで、いつの間にか人混みによるつらさは感じなくなってきていた。
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