第九章
賛同と敵意
町中がブルネラの人々で溢れていた。
災難を乗り越え青空に向かって喜び祝う者がいた。
さっきの災難の噂話をする者もいた。
真珠たちにありがとう! と声をかけてくれる者もいた。
もちろん中には相変わらず真珠たちに敵意を向ける者も。
真珠とノランが町中の路地を駆け抜けている時、敵意を向けた町の住人が立ちはだかり詰め寄った。
「おまえたち! どきなさい!」
「お願い! 通して!」
「なぜ異種族がここにいるんだ!」
「お願い! こうしてる間にもパールが!」
真珠がそう言った瞬間に後ろから男たちの声がした。
「しまった! 挟まれたか?」ノランが振り返る。
後ろの男たちが叫んだ。
「おまえたち! 道を開けるんだ!」
振り返るとその男たちとはグシャン、アロガン、カウアドだった。
「おまえたち……」
ノランが感動していた。真珠も胸が熱くなるのを感じた。
「さぁ! 早く行け! なんだか知らないが急いでるんだろ?」
三人が先に走り、人々が塞ぐ道を体でこじ開け二人のために道を開く。ノランと真珠は三人に礼を言うとその場を駆け抜けた。
「マッシュ!」
ノランと真珠がパールの家に着くと、ドナテラが家の外でマッシュと言い争っていた。
「通してくれ!」
「ダメよ! あなたを通すわけにはいかない!」
パールの家の扉の前で、必死に中へ入っていこうとするマッシュを、ドナテラがふさぐように制していた。
ノランと真珠が駆けつける。
「ドナテラ! どくんだ」
「いいえ! あなたたちには関係のないことだわ!」
「中へ通してください!」
真珠がそう叫びながらノランの陰から進み出た時、ドナテラは真珠の顔を見ると激しく動揺して、四肢の力を失いその場によろめいて座り込んだ。
「失礼する!」
マッシュと真珠がその隙に家の中へ入った。
「ごめんなさい!」
「ま、待ちなさい!」
ドナテラの声だけが二人を追った。
二人が家の中へ入っていったのを見るとノランは、動揺するドナテラの横に腰を下ろした。
「ドナテラ。彼らを信じようじゃないか、我々のために危険を顧みずここまでやってくれた」
ドナテラがノランの顔を責めるように見る。
「なぜ、そこまで彼らの肩を持つの!?」
「私はね、彼らをとてもうらやましく思うよ。誰かに言われるでも、教えられるでもなく、分け隔てなく自分らしい行動がとれる彼らがね」
ドナテラは言葉を止めた。ノランは続ける。
「我々の中にいるだろうか? ただ、困っている者を助けたいから助けると行動できる者が。仲間だから、仲間じゃないから、姿形が違うから、そんなつまらない理由に縛られず行動できる者が?」
ドナテラは黙ったままだ。ノランを見る視線が移動して、心もとなくパールの家の扉を見る。
「アルベロがいたら、きっと私の意見に賛成してくれただろう」
扉を開けたマッシュと真珠を今度はグランドが激しく拒んだ。二階から泣く声が聞こえてくる。
「出ていってくれ! おまえたちには関係ない!」
「頼むから一目だけでもパールに会わせてくれ! パールは上か?」
マッシュは懇願するがグランドは気持ちを曲げない。
「絶対に会わせない!」
「今にも旅立ちそうな娘の最期を、我々との言い争いで見送れなくても、あなたはそれでいいのか?」
マッシュも応戦する。
「そう思うなら出ていけ! ブルネラの民としておまえたちのような者に娘の死を看取らせるくらいなら、父親として娘の死に立ち会えない方を選ぶ!」
グランドの目に迷いはなかった。そこまでの決意を見せつけられマッシュは怯んだ。
「どきなさいよ! わたしがあなたの娘だったなら、わたしたちを通さなかったことを一生恨んでやるわ! なんでもかんでも自分たちの物差しで周りをはかろうとして、恥ずかしいとは思わないの!?」
真珠が完全に頭にきて叫んだ。
哀しみとも怒りともつかない表情で自分を責め立てるその少女を見て、グランドはたじろいだ。真珠の姿に、パールが重なって見えた。
――パール……。
グランドはパールの部屋に続く階段を振り返り仰ぎ見た。
その隙に、マッシュと真珠がすり抜けるように通り過ぎて階段を駆け上った。
グランドが止めることはそれ以上なかった。マッシュと真珠の後ろにグランドも続いた。
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