ボクノ、ゼリー

「フランク! フランク!」


 三人が必死で呼びかける。


「フランク! お願い聞いて!」

「フランクさん! わたくしたちがついてますよ!」

「フランク! もう怯えなくていいんだ! さぁ、仲間のところへ帰ろう」


 フランクの無意識に反応が現れる。


「フランク! 見て! わたしたち三人でアマルさんのお店で作ったあなたのゼリーよ!」


 真珠が飛び出してくるときに思わずとっさに持ち出した白クジラゼリーを紙袋から取り出してフランクに見えるように高く上げた。


(……ゼ…リー……)


「わたくし、張り切って材料を混ぜましたよ!」


(ボクノ、ゼリー)


「私ははみ出さないように型に流し込んだぞ。どうだ? 上手いだろう?」


「フランク! 一緒に食べよう!」


 真珠が精一杯の大声で叫んだ。ノランとアマルも祈るように見つめていた。


「みんな……」


 その瞬間フランクの意識が戻った。フランクの恐怖に共鳴していた白クジラの群れも鎮まっていく。


「フランク!!」


 雲の隙間から光が差し込む。渦巻く恐怖が晴れるかのように青空が戻って来た。嵐が過ぎ去った後かのような凄まじい惨状にフランクは驚き戸惑っている。


「みんな! 怪我はない!?」


 真珠がフランクに「大丈夫よ」と声をかけてから、ゼリーを持ったまま、へなへなと座り込んだ。


「まぁ、地面に大きな穴が開くくらいで済んで、儲けものさ」


 マッシュがジェリービーンズを放り込んだ。


 恐怖に身を縮め、うずくまってた男たちも、無事に混沌を過ぎ越せたのを知ると、ともに抱き合い歓喜の声を上げていた。


 その声は町の中からも聞こえてきた。


(……息子よ……)


 群れの中の一番大きな白クジラが言った。


(息子よ、災難は過ぎ去った。さぁ、我々とともに行こう)


 フランクがその声に驚き振り返る。


「お父さん!?」


 その隣の一回り小さな白クジラが言った。


(私の坊や。さぁ帰りましょう)


「お母さんまで!?」


 父親らしき白クジラが言った。


(おまえの呼ぶ声が聞こえたよ。我々は皆、おまえのことを愛しているからね。さぁ帰ろう)


「ごめんね、お父さん、お母さん、それに群れのみんな。ぼくはまだここでやらなくちゃならないことができたから、先に行っててほしいんだ」


(何をやらなくてはならないの?)


「ぼくがこんなにしてしまったブルネラの大地を、元に戻したいんだ」


(ならば我々はおまえを手伝おう)


 そう言うと群れは地上に降り立った。このやり取りはその場にいた者たちには聞こえなかった。真珠、マッシュ、クルックス、ノラン、アマルを除いては。

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