真珠の半身
「町に戻れ!」
大混乱の中マッシュが叫ぶ。
先の稲妻を目の当たりにして、まともに動ける者などほとんどいなかった。
「もうダメなのか……」グランドがつぶやく。
突如、マッシュ、真珠、クルックスを呼ぶ声が頭に響いた。
その暖かい声をマッシュは知っている。
その優しい声を真珠は知っている。
その懐かしい声をクルックスは知っていた。
「クイーン!」
三人が叫んだ。
(勇敢な旅人よ。恐怖はさらに恐怖を生み、膨れ上がった恐怖の渦は、やがて混沌を連れて来るでしょう。手遅れになる前に白クジラの子に呼びかけなさい。もはやあなた方の言葉しか、彼には届かないでしょう)
クイーンの声がマッシュとクルックスの頭の中から消えた。
さらにクイーンは真珠だけに語った。
(異世界の子真珠。あなたの半身がこの世界での命を終えようとしています。あなた方はこの世界においてすべてを分かち合える存在です。行って彼女を救ってあげなさい)
そう言うとクイーンの声は真珠からも消えた。
――わたしの半身ってどういうこと?
真珠にはそれが何を指すのか理解できなかった。
三人は立ち上がりフランクに向かっていく。ノランとアマルが後ろから叫んだ。混乱の中、二人が何を叫んだのかはわからなかったが、今やるべきことは三人ともわかっていた。
激しさを増す稲妻の中、三人はフランクに駆け寄っていく。
「フランク! フランク!」
真珠が激しい稲妻の中進む。
「フランクさん! フランクー!」
マッシュとクルックスも必死にフランクに呼びかける。
辺りがどうなっているのか、そんなことを気にかける余裕もないままに、フランクの元に三人がたどり着く。体をフランクに預けるように呼びかけ続ける。
頭上を覆う黒い雲からいくつかの影が現れた。フランクなど比にならないほどに巨大な白クジラが群れを率いて集まって来た。白クジラの群れはフランクを中心にその恐怖に呼応するかのように体を反らし、声無き咆哮を上げ始める。
それは混沌の始まりだった。
その波動は大地を割り、嵐を巻き起こす。その場にいた者も、ブルネラの町にいた者も全員がその混沌の幕開けを目の当たりにした。隠れることも逃げることも、本能で無駄だと悟った。
ただ、三人を除いては。
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