カッコウ時計に再会
小包を開けて机の上に時計を取り出すと……なんとそれはクルックス不在のカッコウ時計だった。
「ポォォォォォ!」
バタバタと慌てるクルックスを見て、ノランが箱の底から慌てて修理依頼書を取り出した。クルックスの言っていたとおり、大きな木に川、鳥たちが掘られたそれは立派なカッコウ時計だった。
「まさかこれなのか? 新しいカッコウを製作してほしいとの依頼だ」
クルックスは喜びを隠せない。家の最上部にある番人のためのスペースへ飛び移ってお尻からすっぽり納まった。あたかも大地にお尻をねじ込んで眠りについた、あの島亀のように。
「ポォォォォ~ォ」
クルックスはむせび泣くように鳴いている。
「すごいわ! クルックス! お家が見つかったわね!」
「これは素晴らしい! フランクにも知らせなければ!」
「ありがとうございます。ありがとうございます。わたくし夢のようです」
マッシュが窓を開け、フランクに叫んだ。
「ええ!? 本当におめでとう! よかったねクルックス!」
「見つかって本当によかった。もう日が暮れるから今日は泊まっていきなさい」
ノランが優しく庭を提供した。
一行はその夜ノランの家の庭を借りた。四人最後の夕食を囲む。
「真珠さん! ほっぺをつねって下さい! 本当に夢じゃないでしょうか!? ポォー!」
笑い、お道化ながらも、皆それぞれに寂しさを感じていた。それでも目的を達成した喜びには変えられない。
寂しいという言葉を申し合わせたように最低限に控えながら、ただ喜び合ってその夜は眠りにつく。平原にただ一軒ひっそりと建つ家の庭から眺める星が、あの海面のミミズのように輝いていた。
ノランの工房は夜明けまで明かりが点いていた。
出発の朝が来た。ノランの庭で真珠たちが目を覚ますと、丁度ピカピカになったクルックスが意気揚々と工房のドアから出て来るところだった。
「ああ、真珠さん。丁度朝のお目覚めをお報せしようと思っていたのですよ♪」
「すごいわ! クルックス。ピカピカね! 見違えたわ」
クルックスの「煌めきアタマ」は綺麗に拭きとられていた。代わりに全体をオイルで磨いてもらったようだ。しっとりとして、艶々と深い木の光沢がある。これまで気づかなかったが、胸部に美しい文様が浮かび上がっている。
「そうでしょう!? どうですか! この縮れ杢! チヂレモク♪」
クルックスは自慢げに胸を張って文様を見せてから、くるっと回って全身をお披露目した。
「新規で作らなくて済んだので、後は依頼者の元へ送り届けるだけだ。私もなぜか張り切ってしまったよ」
後ろからノランが微笑みながら出てきた。開いたドアの向こうに磨かれたクルックスのカッコウ時計が見える。クルックスがいないことを除いてはどこも故障してなかったが、生まれ変わったかのように美しく仕上がっていた。
「そうでしょう♪ そうでしょう♪ 美しいでしょう」
真珠の視線の意味を理解して、クルックスが嬉しくて堪らないといったように繰り返した。
四人はノランに感謝を伝え、お礼に朝食を用意することにした。ノランの庭に皆が座れる分の椅子を設置する。机はノランが用意してくれた。
「今日は奮発しなければ!」
マッシュが張り切って、とっておきのハムを取り出してくる。クルックスは一足先にお茶の用意をして、ノランにティーカップを渡して給仕している。ノランは一行が忙しく準備をするのを眺めては満足げにニコニコしていた。
皆でフランクの背中の貯蓄庫から次々に果物やクラッカーなどを運ぶと、ノランが提供してくれた野菜と、花壇にあったハーブを少しいただいて、どんと立派なサラダボウルが出来上がった。最後の仕上げにクルックスがクラッカーを上から散りばめる。
「さて、ではそろそろ」とマッシュが合図を送ると、皆が一斉に声を揃えた。
「ノランさん! ありがとう!」
「ははは。ありがとう。こんな朝食もいいものだな。またいつでも来なさい」
ノランはお茶を飲みながら、この一行の旅の無事を祈っていた。いつものミントティーの香りがさらに爽やかに、草原の風に乗った。
食事が済んで片付けも終わり、フランクは、マッシュと真珠を乗せ、女王の森を目指し出発する。クルックスとノランが見送る。
「本当に皆さんのおかげです。わたくし絶対に忘れません!」
クルックスは涙を堪えていた。
「ええ! 私も忘れないわ、絶対よ! ご家族と幸せにね!」
「また迷子になったら必ず連絡してくれたまえ!」
「ぼく寂しいな。でも本当によかったね! ぼくも頑張らなくちゃ」
フランクが浮かび上がっていく。マッシュと真珠が、フランクの頭の上から体が落ちるくらいに乗り出して、下を覗く。
クルックスとノランはいつまでも上を仰ぎ見て、別れを惜しんでいた。
「元気でな! 旅の目的が達成できるように祈っているよ」
草原の時計工房に暖かく見送られ、一行は女王の森へと旅立っていった。
いつまでも、いつまでも、一行が見えなくなっても、それを見送るクルックスの姿があった。
一行は青空の中、女王の森を目指して進んでいった。
日差しは穏やかで、体に当たる風が優しい。草原の風に後押しされながら進んでいくと、前方に森が見え始めた。これまで見たどんな森よりも遥かに広大な森だ。近づくとその全貌が把握できないほどにとてつもなく大きい。天にも届きそうな大きな木が厳然とそびえ立っている。
「あれがクイーンか。やはり森の中央だな。西の端に降りよう」
フランクが了解し、一行は森の西端に降りた。
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