第12話 新たな少女

「そこにいるのってキョンシーでしょ? すっごく強いみたいだけど、どうやってテイムしたの? 私も知りたーい」


 どうやら少し勘違いしているみたいだ。

 ルリが俺をテイム、つまり使役していると思っているらしい。全然、そんなことないのに。

 ふと、ルリと目が合う。

 言わんとしていることはわかったので、言っていいという意味を込めて頷いて返した。


「カンナちゃん、あのね? この人、今はキョンシーだけど、元人間なの!」

「人間?」

「やあ」

「喋った!?」


 遠巻きに見ていたからか、会話は聞こえていなかったみたいだ。


「だからね、テイムしたとかじゃなくて――」

「すっごーい! 喋るキョンシーなんて初めて見た! ねぇねぇ! 他にも喋れるの?」

「そりゃ、不自由なく」

「わー!」


 ただ喋るだけで驚かれ、喜ばれてる。日本語を話せる外国人って、こんな心境なのかな。

 それからカンナという少女に、事の経緯を説明した。彼女は何度か首を捻ったものの、最終的には理解してくれた。


「ふーん。そんなことがあったんだぁ」

「カンナちゃん。くれぐれも、くれぐれもたよ? マキナ先輩には言わないでね?」

「言わないでって、どっちの方? シンさんのこと? それとも依頼を手伝ってもらってたこと?」

「両方!」

「あはは! 冗談だって。ちゃんとわかってるよ。私こう見えても口は固いんだから」


 本当か? 本当ならいいけど。


「でーも」


 でもと来た。


「なんだか面白そうだし、私も仲間に入れてほしいなー?」

「仲間に? それは別に自分構わないけど。なぁ?」

「はい。もちろんです」

「やったー! これから面白くなりそう!」


 カンナの真意は見えないけど、仲間が増えたことはいいことなはず。これで更に魔物を倒しやすくなった。

 人間にまた一歩近付けた。


§


 クリスタル・タートルの討伐はかなりの難易度だ。頑丈な甲羅は現状のルリには破壊不可。

 殻にこもられると長期戦は必至で、流石に諦めて返ってくるだろう。


「今日はカンナの帰りも遅いな」


 なんでもそつなくこなして、要領よく物事を運ぶのが上手い奴なのに。

 依頼を早く終わらせて、ギルド酒場でだらだらするのが楽しみじゃなかったのか?


「いないはいないで、静かすぎるな。あたしがカンナに毒され過ぎてるのか?」


 だとしたら由々しき自体なんだが。


「はー、疲れた! あ、カンナ・シキシマ、ただいま戻りました!」

「同じくルリ・シキジョウ、ただいま戻りました」

「おぉ、戻ったか」


 思わず安堵の息が出てしまった。


「あれあれー? もしかして帰りが遅いから心配してくれてたんですかぁ? マキナ先輩やっさしいー」

「うるさーい! それよりルリ、依頼はどうなったんだ?」

「あ、はい。この通り」


 ルリの手にはクリスタル・タートルの甲羅の欠片が抱えられていた。

 う、嘘だろ? 絶対に失敗すると思っていたのに。

 というか、どうやってクリスタル・タートルの甲羅を割ったんだ? あたしでも目茶苦茶苦労するのに。


「こ、今回はどうやって倒したんだ?」

「えっと、それは――」

「まぁまぁ、いいじゃないですか、そんなこと。早く席に付きましょうよー。私、ドラゴンオレンジが飲みたいなー」

「あ、こら。引っ張るな、カンナ! まだ話は――おい、聞け!」

「あはは、聞こえませーん」


 結局いつもの如くカンナのペースに乗せられて二人に一杯奢ってしまった。

 二人共喜んでくれるから別にいいんだが、何故かいつもカンナのおねだりには逆らえない。

 これに関しては天性のものを感じる。

 あいつこれで食っていけるんじゃないか?


「あー、マキナ先輩がなにか失礼なこと考えてるー」

「なっ、なんでそう思う」

「顔にそう書いてあります」


 ルリのほうを見る。

 首が横に振られ、ルリにはわからなかったそうだ。

 末恐ろしい奴だよ、本当に。

 将来、成人したらどんな女になるんだか。

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