第13話 緋緋色の蜘蛛
ルリ曰く、カンナは猫のような人らしい。
きまぐれで飽きっぽく、離れたと思えばいつの間にか側にいる。
動きはしなやかで、ルリと同期の冒険者の中では一番強いとか。
「もうすぐかな」
共鳴の鈴の音が徐々に大きくなってきた。
もう何度目かになるし、流石に感覚が掴めてきたところだ。この音量だと今に現れるはず。
「こっちかな?」
「あ、いた!」
ルリとカンナの二人がダンジョンの影から顔を出す。予想的中だ。
「ふーん、こうやって会ってたんだぁ。なんだかイケナイ密会って感じがして面白ーい!」
「まぁ、他の人にはバレてほしくないけど」
「大変なことになりそうですもんね」
「たしかに! 喋るキョンシーだもん。しかも進化しちゃう! ギルドの人たちに捕まったら大変!」
「ど、どうなるんだ?」
「解剖とか、人体実験とか、珍獣としてペットにされちゃうとか。最悪討伐されちゃうかもぉ!」
「そ、それはぞっとするな。特に討伐は」
殺されるのは勿論いやだし、人間と戦うことになるのも避けたい。もちろん、前の三つも御体験したくはない。
二人にも迷惑がかかると思うし、秘密は秘密のままでいてほしい。
「そうだ。今日の無理難題は?」
「あ、それなんですけど」
「今日はないんだよねー」
「そうなのか?」
「はい。今回は特に何も」
「きっとクリスタル・タートルを倒しちゃったから頭抱えてるんだよ、マキナ先輩。次はどんな魔物にすればいいんだーって」
「強すぎても弱すぎても修行ならないからか」
相手選びも大切だ。
だからと言ってクリスタル・タートルが適正だったかと問われれば、俺は首を傾げざるを得ないけど。
「修行?」
「カンナたちの先輩が無理難題を出すのって、ルリの修行のためなんだろ?」
そう聞くとカンナは何かを思案するような顔をして数秒ほど沈黙する。
「……うん、そう!」
「今、妙な間があったけど」
修行でいいんだよな?
「それより、これからどうします? なにもないなら私に提案がありまーす!」
「提案? どんな?」
「
「緋緋色蜘蛛か」
クリスタル・タートルほどではないにしろ、こいつも巨大な蜘蛛だ。
その名の通り緋色の外骨格を身に纏い、吐く糸はヒヒイロカネの如く硬く、それでいてしなやからしい。
「選んだ理由はなんなの? カンナちゃん」
「んーと……なんとなく?」
「理由とかないのか」
「でも、ほかに候補いないでしょ?」
「それはそうだけど」
魔物に詳しくないし、ほかに倒したい相手もいない。折角の提案を意味もなく無下にすることもないか。
「わかった。ルリもそれでいいか?」
「はい。これも修行です!」
「そっか、ならよかった。じゃあ、決まりだ。カンナ案内頼む」
「はーい! こっち、こっち。ついて来てー!」
先行して歩くカンナの後を追い、緋緋色蜘蛛の元へと向かった。
§
ダンジョンを突き進むと、チラホラと蜘蛛の糸が目立つようになってきた。
小蜘蛛精一杯糸を出して巣を作っている。まだ建設途中ながら、その糸には何匹か羽虫が掛かっていた。
それに掛からないように躱して通路の奥へ。
たどり着いた空間には、夥しい量の糸が四方八方に張り巡らされていた。
まさに蜘蛛の巣だ。
「こう糸を張られると視界が悪いな。奇襲は無理か」
「ですね。堂々と行くしかなさそう」
「待てよ、あの糸燃やせるんじゃ」
「炎上しますかね? 燃やしたとこだけ溶けちゃうかも」
「そういうこともあるか」
蜘蛛の糸を燃やしたことなんてない。
しかも相手は魔物の蜘蛛だ。糸の成分が違うだろうし、実際にどうなるかはわからない。
わからないなら。
「こっちの存在を気づかせることになるけど、炎上するか試してみるのもありだな」
「いいと思います。どうせ、不意打ちは無理そうですし」
「私もさんせーい。ただ出てくより、ずっといいですよ。情報、仕入れちゃいましょー!」
「よし、そうするか」
そうと決まれば行動あるのみ。
早速、緋緋色雲の巣に踏み込み、大きく息を吸い込んだ。吐き出した火炎は蜘蛛の糸に触れ、その部分を焼却する。
しかし、カンナの言う通り炎上しない。
この巣にあるすべての蜘蛛の糸を炎上させるのは現実的じゃないことがわかった。
この情報と引き換えに、俺たちの存在が気取られる。
「そら、来るぞ!」
蜘蛛の糸を伝い、緋緋色蜘蛛が現れた。
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