第11話 重ね掛け
ルリが頑張ってクリスタル・タートルの相手をしてくれている。その貴重な時間を使って準備するのは物がある。
四方八方、なるべく広い範囲に数多く、トレントのスキル【緑化】でよくしなる木を生やす。
それを楔にミイラのスキルで包帯を巻き付け、網目状に張り巡らせた。
これでクリスタル・タートルを絡め取る。
ここに誘い込むため、桜並木よろしく、樹木で道を作ろうかと思ったけど、その必要はなくなった。
「ルリ!」
「はい!」
ルリはこちらの準備が整うまで、きっちりクリスタル・タートルをいなし続けてくれた。
最後の仕上げに地面の隆起を利用した一直線の道が作り出される。
その道を通らざるを得ないクリスタル・タートルは、俺が作った罠に一直線。勢いよく、包帯の網に突撃した。
木々が歪な音を立てて悲鳴をあげる。
包帯は甲羅の凹凸に絡みついて限界まで伸び、クリスタル・タートルの回転を阻害する。
「止まれ!」
思いが届いたのか、クリスタル・タートルの回転が止まる。包帯が雁字搦めに絡まり、身動きを封じた。
こうなればこっちのものだ。
結晶の甲羅の上に飛び乗り、ケルピーのスキル【水操】を発動。ウォーターカッターを一点集中させて貫きにかかる。
だが。
「マジかよ、びくともしない」
あの絶対的な威力を誇ったウォーターカッターが初めて敗北を喫した。この至近距離で長時間放ち続けているのに、すべて弾かれる。
「駄目だ。別の手を考えないと」
火炎を吐き、閃光を放つ。
熱でどうにかならないかと思ったが予想は外れ、ガーネットによる閃光は鏡のように跳ね返された。
ルリもあらゆる魔法を試してくれているが、俺と同じで効果がない。
あと残された手は――
「試してみるか」
ミノタウロスのスキル【剣製】を発動し、右手に得物を握る。その造形は凡そ剣とは言えず、言い表すなら棘棍棒。
剣製とは聞いて呆れるだろうが、このスキルはこういう使い方も出来るみたいだ。
「上手くいってくれ!」
スキル【剣製】×【怪力】の重ね掛け。
そこからなる一撃は岩をも砕き、結晶にすら亀裂を走らせた。
「まだ足りない……だったら!」
スキル【剣製】×【怪力】×【狂化】の三重掛け。全身を赤褐色に染め、漲る力と狂気を込めて、一撃を振り上げる。
「アアアアアァアァァアアアアア!」
絶叫と共に振り下ろした一撃は、クリスタル・タートルの甲羅を完全に破壊する。
即座に狂化を解除。
足場を壊したことで自由落下に移行し、眼下にはクリスタル・タートルの剥き出しの臓物。
やるべきことは決まっていた。
スキル【宝石】を発動し、生成したガーネットに光を宿す。放った閃光はクリスタル・タートルを貫き、二手に分かれてそれぞれが頭と尻尾を目指す。
「真っ二つだ」
一瞬にしてクリスタル・タートルを両断。
死体は二つに分かれて倒れ伏し、俺はその間に結晶の破片と共に落ちて着地した。
「倒したあー!」
うんと伸びをして、勝利の余韻に浸る。
かなり苦戦させられたが、今回もなんとか勝つことが出来た。
「ありがとう、ルリ。お陰でクリスタル・タートルを倒せた。一人じゃ倒せたかどうか」
「えへへ、少しでもお役に立てたならよかったです!」
ルリはにっと笑った顔を見せてくれた。
「さて、飯の時間だ……って言っても」
「食べるんですか? この量を」
「食べるんじゃないかなぁ」
甲羅と骨の分を差し引いたとして、それでも巨体は巨体。明らかに胃の許容量を途轍もなく逸脱しているが、果たして。
胃が張り裂けても食い続けるとかないよな?
「まぁ、食うしかないんだけど」
「じゃあ、私は見張ってますね」
「いつも悪いな」
「いえいえ」
ルリに見張りを任せ、クリスタル・タートルの時代の前で腹を括る。
「いただきます」
スキル【狂食】を発動。瞬間、思考が極端に狭くなり、目の前の肉を食うことしか考えられなくなる。
一心不乱に肉を貪り食い、気がつくと終わっていた。眼前には骨が転がっていた。
「全部、食ったのか……腹はッ!? よかった裂けてない」
ほっと一安心。
「それにしても、どうなってるんだ? 俺の胃は」
「多分ですけど、消化が凄く早いんだと思いますよ」
「ルリ、見てたのか」
「あ、もちろん見張りはちゃんとしましたよ」
「はは、疑ってないよ」
「ふぅ。それで合間を見て様子を見ていたら、シンさん食べ過ぎで消化不良を起こしてたんです。ふふっ」
「消化不良!?」
「はい。お腹を擦ったり、寝転んでゴロゴロしたりしながら、休み休み食べてましたよ」
「そんなことしてたのか、狂食中の俺」
寝言を聞かれたみたいな気恥ずかしさがある。しかし、休み休みであの巨体を食べ尽くせるんだから、大した消化力だ。
「そうだ」
獲得したスキルの確認。今回は【結晶】だ。
発動してみると、六角形の薄い結晶が幾つも組み合わさった一枚の盾が生成される。
クリスタル・タートルの甲羅を模しているようにも見えた。スキルの大元なのだから当然か。
盾か。初めての防御手段だ。
「へぇー、そういうことだったんだぁ」
不意に響くルリではない少女の声。
この気配、今日ルリと会った時に感じた、あの気のせいじゃなかったのか。
彼女は姿を表す。
ルリと同じ服装ながら着こなしはまるで違っていて、どちらかと言えば俺がいた世界のファッションに近い。
着崩しも着こなしも馴染みやすかった。
「ルリちゃんの秘密、見ーちゃった」
もしかして、不味いことになった?
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