第9話 柔らかくしよう

「ゾンビ、ミイラときて今度はキョンシーか。あ! 関節が! 曲がんない!」


 カチカチに固まっていて、キョンシーお馴染みのポーズから少しも動かせない。すべての部位がピンと伸びすぎている。

 こいつは困った。


「だ、大丈夫ですか?」

「まぁ、なんとか。あ、力入れたらちょっとだけ曲がった。こりゃ時間掛けて解さなきゃ駄目っぽい」


 そうしないと、この関節の具合では満足に戦えもしない。


「うーん……水に浸けてみる、とか?」

「そんな乾物じゃないんだから……でも、ものは試しか」


 ケルピーのスキル【水操】で水球を作り、各関節に配置。ワカメや昆布を水で戻すが如く、関節が柔らかくなることを願う。

 それから約十分くらい、ルリと他愛もない話をして暇を潰す。

 すると。


「お? 動く、動くぞ! 関節!」

「本当ですか? やった!」


 今ほど関節の有り難みを感じたことはない。


「今日はよくルリに助けられるな」

「えへへ」


 グーとパーを繰り返して動作確認。関節機能に問題なし。足も上がるし、腕も曲がる。これで魔物とも万全の状態で戦えそうだ。

 ステレオタイプのキョンシーみたく、ぴょんぴょん跳ね回りながら戦うはめになるところだつた。

 ナイスアイデアをくれたルリには感謝しないと。


「そう言えば」


 キョンシーのスキルは【怪力】らしい。

 怪力と言ってもどれほどのものか。

 一度何かで試してみないことには、勝手がわからないな。


「ルリ、リザードマンの鱗一枚もらってもいい?」

「あ、はい。もちろん、どうぞどうぞ」

「ありがと」


 側に落ちていたリザードマンの鱗を拾い、指先で持って軽く力を込めてみる。

 パキッと爽快な音がして、リザードマンの鱗は砕け散った。


「わーお」

「バラバラに……」


 仮にこれが二枚重ね、五枚重ねだったとしても、同じ結果だったと確信を持てる。

 キョンシーのスキル、思ったより強いかも。


§


「マキナ先輩って、ルリちゃんのこと嫌いなんですかぁ?」

「な、なに?」


 いつものギルド酒場にて。

 カンナがまた妙なことを言い出した。


「あたしはルリのことを嫌いだと思ったことはないが」

「えー、ホントですかぁ? だってルリちゃんにいじわるばっかりしてるじゃないですかぁ。今日だってリザードマンの鱗の納品なんて無理難題だして」

「そ、それは愛のムチというものでな」

「あー! それ、いじわるを正当化する常套句ですよー!」

「ち、違う! あたしは本当にルリのためを思って」

「私がどうかしましたか?」

「ル、ルリ! 帰ってきたのか」

「はい。ルリ・シキジョウ、ただいま戻りました。それで……」

「いや、なんでもないんだ。大したことじゃなくて、またカンナの奴が妙なことを言い出しただけでな」

「あ、ひどーい!」

「それより!」


 またカンナが余計なこと言い出さないうちに、ここは急いで話題を変えよう。

 それが得策だ。


「今回の依頼はどうだった?」


 今回も今のルリにはキツい依頼を受けさせた。今度こそ失敗したに違いない。

 あたしの思惑通り、自分を変えるための切っ掛けになってくれればいいが。


「はい、ここに」


 なんだ? この袋は。


「なぁ!?」


 中を見るとリザードマンの鱗が大量に入っていた。

 しかも赤褐色、狂化している。いや、たしかにリザードマンは狂化させたほうが寧ろ対処しやすいが……

 マジかぁ。


「わぁ、すっごーい。ねぇねぇ、ルリちゃん。今度はどんなカラクリなの?」

「えっと、たまたま奇襲が上手く行って、そのまま勢いで」


 また運勝ちしてるし。

 しかし、協力者でも居るんじゃないかと疑いたくなるくらい、難易度の高い依頼を成功させている。

 まぁ、考えすぎか。

 しかし、参った。これじゃ、あたしの計画がパァだ。なんとかしたいが、依頼が成功すること自体はいいことだしな。

 うーん、難儀な話だ。


「ふーん? なるほどねぇ」


 あ、カンナの奴、なにか企んでるな。

 あたしに関係のないことだといいけど。


 

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