第5話 変えたい自分
自身の足元に樹木を生やし、その勢いで大跳躍。一気にヴイーヴルと同じ目線まで到達し、そこからスキル【包帯】を発動。
全身から包帯を伸ばし、ヴイーヴルの体を絡め取る。同時に包帯を収縮させることで近づき、その背に飛び乗った。
「マウントポジションだ!」
スキル【水操】を指先に一点集中。超高水圧のウォーターカッターをヴイーヴルに見舞う。
薙ぎ払った一太刀は硬い鱗を斬り裂いて胴体を両断。蝙蝠の翼も深く裂いて、二つに分かれた体は地に落ちた。
「な、なんとか下敷きにならずに済んだか」
そのことに安堵しつつ、ヴイーヴルの死体から降りる。
ルリは何処にいるかな、落ちたのが見えたはずだけど。
そう周囲を見渡していると、背後で何かが赤く光る。
まさかと思い振り返ると、そこには半身だけで立ち上がり、ガーネットの瞳に光を宿すヴイーヴルがいた。
「マジかよ」
なんて生命力だと驚愕した、その刹那。
ヴイーヴルの顔面目掛けて飛来した炎弾が炸裂する。それが駄目押しとなり、ヴイーヴルは今度こそ命尽きた。
力なく横たわる。
「ありがとう。助かったよ、ルリ」
「いえ、私はなにも。ほとんどシンさんのお手柄です」
「そんなことない。炎弾を当てて怯ませてくれたし、今のだってそうだ。ルリがいなきゃ勝てなかったよ」
そう言うとルリはきょとんとした顔になり。
「そ、そうですか? えへへ。そっか、私、人の役に立てるんだ!」
一気に元気になった。
「ほら、ガーネットの瞳」
「わっ、ありがとうございます。わぁ、綺麗」
投げ渡した宝石に見惚れるルリは年相応のただの少女に見える。これが魔法を使って魔物と戦う冒険者だもんな。
けれど、宝石を見つめる笑顔も次第に曇ってしまう。
「どうかしたのか?」
「えっと、実はですね……本当はこの依頼、私が受けていい難易度じゃなかったんです」
まぁ、薄々そうじゃないかと思ってはいた。
ケルピーから逃げていたのに、それより確実に強いヴイーヴルに挑むのは不自然だ。
「というと?」
「私、グズでノロマで、直ぐに人に迷惑を掛けちゃって。だからきっと先輩は、修行のつもりでこの依頼を私に……」
「そうか……」
修行にしてはハード過ぎる内容だと思うけど、こっちの世界じゃ当たり前なのかも。
なにしろルリが身を置く社会の常識や価値観を俺は知らない。
一歩間違えれば命を落とすようなことでも、許容されてしまう世界なのかも知れない。
日本でも、今では考えられないくらい、人の命が軽い時代があったし。
「シンさんのお陰で依頼は達成出来ました。でもこの成功は私の実力じゃなくて、だから……」
「なら、実力を付けるしかない」
「え?」
「グズでノロマだって思うなら、そんな自分を変えればいい。手伝うよ、俺にもメリットがあるしね」
「いいんですか?」
「いいよ、今日みたいに一緒に戦おう。そうすれば実力もつくし、自分を変えられる、かも」
「そこは私次第ですね」
その通り。
「ありがとうございます。お陰で元気が出ました! 明日からも頑張れそうです!」
「よかった。それじゃ、またちょっと見張り頼める?」
「あ、はい! お食事ですね。任せて下さい」
「ありがと。いただきます」
死したヴイーヴルの前に腰を据えて、ゾンビ時代から引き継いだスキル【狂食】を発動。
一心不乱に食らいつき、我に返ると鱗と骨だけが転がっていた。
「ごちそうさま。流石はワイバーン……食いごたえがあった」
ヴイーヴルのスキルも無事に獲得。
宙にガーネットの宝石が浮かぶ。
その気になれば閃光も出せるけど、必要もないし今は止めておこう。
「終わりましたか?」
「あぁ、終わったよ。ありがと」
「えへへ、どういたしまして」
これからもルリとの共闘が続く。
きっと今の俺じゃ歯が立たない魔物も二人なら倒せるようになる。そんな気がした。
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