第4話 宝石の瞳

 念願の進化を遂げた結果、俺はゾンビからミイラへとその種族を変えることとなった。

 干乾びた肉体に巻き付けられた包帯は一体どこから? 答えはミイラのスキルにある。

 スキル【包帯】文字通り包帯を操ることができる。伸縮自在の丈夫な物だと、ミイラになった俺には感覚的に理解できた。

 何かと使い道があるはず。


「人間がよかったけど、そんなに上手くはいかないか」


 こればっかりはしようがない。

 割り切って次の種族進化に期待しよう。

 そのためにも魔物を食べないと。


「一歩前進。行くか」


 トレントが作った植物の楽園を抜けて、また岩肌の地面を歩く。次に遭遇するのはどんな魔物か、予想しながら進む。

 すると。


「あ」

「ひぇっ」


 ルリと遭遇した。


「ミ、ミイラ!」


 ルリに剣を向けられてしまう。


「待った待った、俺だ俺! ゾンビだったシンだ!」

「へ? シンさん、なんですか?」

「他に喋るミイラがいる?」

「たしかに、いません」


 納得してもらえてなにより。


「あ、顔が同じだ」


 包帯越しに見える俺の素顔は、ゾンビ時代と同じらしい。そう言えば今の俺ってどんな顔してるんだろ?

 後で確かめとくか。


「でもどうしてミイラに?」

「それは――」


 別に隠すことでもないので、ルリに事の経緯を包み隠さず話した。


「な、なるほど、種族進化で人間を。そんなことがあるだなんて」

「信じられない話だろうけど、本当なんだ。ガチャを回してる気分だよ」

「ガチャ?」


 やっぱり知らないか。


「なんでもない」


 そう誤摩化した。


「そう言えばルリはどうしてこんな危険な場所に?」

「それは私が冒険者だからですよ」

「冒険者?」

「知りませんか? 依頼を受けてこう言ったダンジョンから魔物の一部や資源を持ち帰ったりするんですよ」

「へぇ……ん? この洞窟ってダンジョンだったの!?」

「は、はい」


 そうか、これがダンジョン。

 アニメやゲームによく登場する舞台が現実にあるだなんて、不思議な気分がするな。

 俺の身に起きたことはもっと不思議だけど。


「じゃあ、今日も依頼を受けて?」

「はい。ヴイーヴルという魔物が持っている宝石の瞳。それを持ち帰ることです」


 ヴイーヴル。小型のワイバーンか。


「ケルピーより強い魔物だけど」

「が、頑張ります」


 この前は追い詰められていたのに。

 無理難題とまでは言わないけど厳しいのでは? ちょっと心配だな。


「……じゃあ一緒に倒しに行こうか」

「へ? い、いいんですか?」

「もちろん。宝石の瞳はいらないから、それ以外をくれるなら」

「是非! 是非お願いします!」

「よし、決まりだ!」


 かくしてルリとの共闘が決まった。


§


 ヴイーヴルの居場所まではルリが案内してくれた。

 流石は冒険者とあってダンジョンの構造をよく把握している。迷わず住処まで到着した。

 遠巻きに見るヴイーヴルは小さいが立派なワイバーン、ドラゴンの一種だ。

 ガーネットの瞳、蝙蝠に似た翼、額には女性の顔のような模様が鱗によって描かれている。尾は蛇のようだ。

 今は魔物の骨で出来た巣の上でじっとしていて、時折あくびをしている。


「準備は?」

「だ、大丈夫です」

「よし。なら、行こう」


 通路の影から出て、ヴイーヴルの住処に踏み入る。その瞬間、ヴイーヴルのガーネットの瞳がこちらを捉えた。

 気づくのが早い。


「来るぞ!」

「はい!」


 ヴイーヴルは蝙蝠の翼を羽ばたかせて巣から飛び立ち、攻撃を仕掛けてくる。

 ガーネットの瞳に光が集い、放たれるのは赤い閃光。

 それはなぞるものすべてを破壊しながらこちらに迫る。


「避けろ!」


 互いに別々の方向へ回避行動を取り、なんとか閃光の回避に成功する。真っ直ぐに振ってくれて助かった。

 追尾されていたら、どちらかが死んでいたかも知れない。


「二手に分かれよう。なるべく俺が攻撃を引き付けるから隙をついてくれ!」

「わかりました!」


 ルリに指示を出してから、全速力で駆ける。

 繰り出される赤い閃光を紙一重で躱し、ヴイーヴルの注意を引く。

 しかし、ああも空中に居座られては、こちらに有効打がない。

 火炎を吐いても届かないし、ウォーターカッターは距離が離れると単なる水飛沫と変わらない威力になる。

 ここはルリに期待しているんだけど。

 そう思っていると、赤い閃光を放つヴイーヴルに、飛来した炎弾がヒットする。

 ヴイーヴルが怯んだ。


「チャンス!」

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