第20話
呪い…。B子はどうしているだろうか?Aはふと考える。彼女は今も「GAMER」同僚からの執拗な嫌がらせに耐えながら、日々仕事に励んでいるのだろうか?確かに彼女にもその素地があるとは云え、何故そんな理不尽を受け入れなければ日常の生活を成り立たせることができないのだろう?それともB子自身、それを何か別の試練として甘受しているのだろうか。だとしたらそれもまた呪いだ。Aは思う。
「いよいよ佳境だけど、やっぱり煮詰まっちゃったね。オタクの人ってのは意外とモノ知らないからなあ」
「しばらく放っておいて下さい。多分何か手はあると思いますから」
「う~ん。最初から君のストーリーテリングの腕にはさほど期待していないよ」
「そうですか。なら良かった」
「むしろ気をつけて欲しいことはあるよ。言ってもいい?」
「参考としてなら」
「『ZONBA』変容の謎解きなんて本当はどうでもいいんだよ。肝心なのはそこに何が残るかということなんだ」
「何が残るか?」
「そう。君の言う通り、まずは思うがままに話を動かしてみたらいい。しかし、大事なのはその最後にどんな景色が待っているか。悲劇でも、喜劇でも構わない。この話の良さはその器のデカさだよ。ところが君は、此処にきて妙に格好をつけようとしている。小生意気な知識を駆使してね。もちろんディテールは必要だ。しかしそれが何の為に在るかということも考えて欲しい。ま、そんなところだね」
Aは驚いている。この正体不明の
「それにさ、君もそろそろ次のステージに進んだらいいんじゃない?
」「どういうことですか?」
「引きこもるのにも、いい加減飽きちゃってるだろうと思ってさ」
え?Aはミツオの真意を測りかねる。
「なんとなく、君自身がその空間に合わなくなっている気がしてね」
「それは、貴方に今とやかく言われる筋合いではないと思います」
「お、怒った?」
「不快ではあります。そう何でも自分は分かってる風な言い方をされると誰しも嫌な気持ちになると思います」
「ああ、悪い悪い。ボク自身はそんなつもりはないんだけどさ。ボクはね、自分のことなんてコレっぽっちも信じちゃいないだよ。だから人の評価もあまり気にならない。それだけのことなんだけどな」
「ひょっとして、貴方も引きこもりなんですか?」
「おいおい、妙な勘ぐりは止しなよ。ボクはこう見えても実業家さ。だから時間はある程度融通が利く。君とは真逆だが、一周回って同族に思えたかい?」
「そうでもないですけど。とにかく僕はまだこの部屋を出ていく気はないんです。そんなことより物語を書くことの方が面白いですから」
「ふ~ん。なら、せいぜい踏ん張ってやってみることだ。チャオ」
いささか振り回された感は否めないが、Aはその唐突な引き際に不思議と親密さに近い可笑しみを感じ始めている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます