第5話
「人間が「ZONBA」になるきっかけですが、自分の名前を棄てるっていうのはどうでしょう?」
B子からの提案は突然だった。「名前というのはやっぱり大事だと思うんです。自分という存在の第一キーワードですし、それを「P2」との契約で棄ててしまうんです。自分の夢(欲望?)を叶える為の唯一の代償として」
なるほど、とAは思う。しかし自分の名を棄てるということだけでは少し弱くないだろうか。正直にそう返した。
B子の返事。「大袈裟な言い方かも知れませんが、名前を棄てるということは自分の依り代(よりしろ)を差し出すということだと思います。まるで黒魔術みたいですけど」
依り代…。Aはその言葉に一瞬反応する。「でもアプリの側からすると、名前を取り上げたところでどんなメリットがあるのでしょう?」
「個人情報を集める為というのはどうでしょう。現代では名前はアイデンティティーというよりむしろ個人情報のキーワードでしょうから」
「つまり個人情報を奪い、その人の財産を掌握するという目論見ですか?」
「全くないとは言えませんが、むしろ本当の目的はその人の『人生情報』そのものではないでしょうか」
「人生の、情報?」
「つまり経験です。「P2」の究極の目的は増え過ぎてしまった人類の情報を集め、一つの巨大な電脳に収めきること。あとは…」
「「ZONBA」になった者たちを(あるいは社会を)駆除すればいい…」AはB子の言葉を継ぐ。「驚きました。B子さんの発想はぶっ飛んでますね。いきなり人類滅亡レベルにまで行っちゃうんですから」
「AI「アダム」はどうしようと考えますか?」今度はB子が訊いてくる。
「そうですね。もともと自進化する電脳ロボットですから、事態を嗅ぎつけ残った人類の為に戦いを始めるかも知れませんね」
「戦い、ですか。敵は誰だと思いますか?」
「うーん、急展開過ぎてよく分かりませんけど、…例えば巨大資本家」
「あるいはテロリスト集団?」
「何だかありがちですかね。でもAI「アダム」は最終的にどうなるのでしょう?人間のようになってしまうんでしょうか」
「多分行き着くところは「ビッグブレイン」と同じでしょう」
「あ、名前が付きましたね」
「はい。でも「ビッグブレイン」は戦わないと思います」
「どうしてですか?」
「目的が別にあるからです。多分「ビッグブレイン」は残すことを考えているんだと思います」
「残す…」
「人類の記憶を。つまり「ビッグブレイン」も次の段階への入れ物に過ぎないということです」
「何だかすごい話になってきましたね。僕には正直ピンと来なくなってしまいました」
「AI「アダム」と「ビッグブレイン」は兄弟みたいなものかも知れません。いえ、もしかしたら双子かも。そしてやがて二つは融合してまた別の存在へと昇華するのかも知れませんね」
「話が逸れますけど、その頃の人間社会はどうなっているんでしょう?」
「国家はほとんど機能していないと思います。というかおそらく政治家のほとんどが我先に「ZONBA」になっているでしょうし。でも人間社会がどうなっているかは私にもよく分かりません。やっぱり一番不可解なのは人間だと思うから」
「分かりました。僕はとにかく今日のB子さんのアイデアを参考にしながら、もう一度続きを考えてみたいと思います」
「健闘をお祈りします」
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