第2話
「ZONBA」にはいろんなタイプがいる。しかしその者らしい個性があるかといえばそうでもない。むしろ彼らはヒトという動物が持つ「欲望」一つ一つの象徴のようだ。だからその行動そのものは或る意味極めて「人間らしい」。しかしそれらが相克した場合、即刻現場は修羅場と化すことになる。そして実体が掴めぬまま日本のみならず世界中で着々と「ZONBA」化が進んでいく。その状況を冷ややかに見ているのがAI搭載型ロボットの研究者Mだ。彼は「有機電脳」と呼ばれるタイプのAIを長年研究してきたが、学会では常に異端者扱い。その研究成果はほとんど顧みられることはなかった。彼の目指すロボットは「健全で、思考する、日常生活のパートナー機械(メカ)」だ。それは「健全」である以上、試行錯誤を繰り返し学習し続けなければならない。つまり完成ということがないのだ(まさにその点が彼の研究批判要点にもなるのだが)。Mは開発中のAI「アダム」に「ZONBA」の生態(?)を学習させる。皮肉にも、「ZONBA」こそ人間の欲望について学習させる格好の材料(マテリアル)だから。
「 『ZONBA』って逆にロボットみたいですね。個性がなくて。でも、唯一の欲望だけは満たそうと、ただひたすらに行動する。普通の人間が敵いっこないですよね。ましてや私なんか」
その日のB子のコメントにはどこか元気がなかった。Aは初めてB子にリコメント(返信)する。
「B子さんの近くにも『ZONBA』みたいな人、いますか?」しかしそれについてのB子の反応は遂に返ってこなかった。
「ZONBA」の感染経路が解明された、とのニュースが流れた。それによると「ZONBA」には或るネットアプリを多用していた共通項があるらしい。しかしその一方でその情報の真偽は疑わしいとの意見も多い。大体アプリを使ったぐらいで人間が「ZONBA」のようなバケモノになってしまうだろうか?そのアプリとは世界有数の財閥系IT企業が開発した「願望実現を手助け(アシスト)する」という代物。人によってはそのAIの指示通りに行動することで億万長者になった者もいるらしい。謂わば庶民を幸せにする「夢のアプリ」。「ZONBA」たちはそのAIアプリに洗脳された成れの果て、なのだろうか?
「この前はご心配お掛けしてすみませんでした」B子からの数日振りのコメント。「お話はますます進展しているようですね。時折Aさんの頭の中を覗いてみたいと思うことがあります。普段からたくさん勉強なさってるから、こんなに面白い話が湧き出てくるんでしょうね。尊敬してしまいます。私も昔から本を読むのが好きで、実はマンガ家になりたいと思ったこともありましたが、やはり根気と才能がありませんでした。それに…。とにかく今はAさんのお話を楽しみに一日一日を頑張っていこうと思っています」
Aは驚いている。自分が半ば出まかせに書き出した物語に見ず知らずの他人が励まされてると云う事実に。そして今まで無能そのものと思っていた自分が何だか急に満更でもない存在に思えてくることに。
あなたの近くにも「ZONBA」みたいな人、いますか?AはB子にした問いをふと口に出してみる。そして自分の中に不思議な波紋が生まれつつあることを思う(気分的には静かで柔らかい海底の水を漂うようで、決してネガティブではないのだが)。「ZONBA」みたいな人…。Aにとってはそれだけが、重石のように鈍く沈んで感じられる。
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