26.あの女を許さない

 舞妓との騒動があってから数日。私はインフルエンザになってしまい、自宅学習となった。とはいっても3日間ほど熱で強制的に勉強はストップになった。受験生にとって風邪は大敵なのに、インフルエンザになってしまうなんて。舞妓の暴言に免疫力が低下したせいかもしれない。私のメンタルはこんなにも脆かったのかと、自分の弱さに幻滅する。


 とはいえ、未熟な私には色んなことが負担になっていた。初めての受験。家庭教師の存在。そして不二との出会い。不二に関わる色々な出来事。そしてそれが初めての恋愛感情だと知ったこと。恋愛でただでさえもいっぱいいっぱいなところに、私の経験値では手に負えない、舞妓の存在。


 私にとって恋愛感情は、幸せであり、幸せも負荷も大きくかかる。とくに不二の場合。とてもやっかいな相手を好きになってしまったと思う。つかみどころがなく、年齢差もあり、そのうえ教師。初恋とはこんなにしんどいモノなのか。


 舞妓との騒動の後。私はピアノ室から遠ざかった。舞妓の狂言だっとしてもあまりに彼女の言葉は強く、不二の顔がまともに見られないんじゃないかという恐怖が私の中にあったからだ。


 情けない・・・。


 けれど、千里、裕子、美咲に話しをして、少しだけ心が軽くなったような気がする。ただ、話してしまったことを後悔している部分もある。それは不二と私だけの秘密を共有してしまったことだ。

 それに、学校で教師と生徒が抱き合ってしまったことは、いくら慰められたとはいえ、不二の行き過ぎた行動を非難されるのはないかと心配もした。


 インフルになって5日目。熱を計ると37度まで下がった。やっと食べる意欲が出てきた。このところ水を飲むことと、果物しか食べられなかった。母に用意してもらったおかゆとスープを自分の部屋で食べる。着替えもした。そろそろ、勉強も再開したい。


 参考書に手を伸ばそうとしたが、手に取ったのはスマホ。また『TF』の携帯電話番号が表示された画面を見る。どれだけこの画面を見たことか。すっかり電話番号も覚えてしまった。でもまだ電話はかけることができない。


 不二と会っていない日数を数える。8日間も会っていない。


 高熱が落ち着いてからは、思い出したくなくても舞妓の言葉を繰り返し思い返していた。口にするのも不潔な言い回し。同じ15とは思えない、卑しい表情と、歪んだ言葉だった。


ーーー抱いてと言えば抱いてくれる。・・・舐めてくれた。


 強烈な言葉が耳にこびりついている。もう、学校に来てほしくない。あんなトラブルメーカーと関わりたくもない。


 病気のときは人はとかく弱気になる者だ。私は今、弱っている。このままではあの女に勝てない。


 私は自分の目で見たこと、自分で感じたことを信じたい。噂は嫌いだ。あの女の言葉を鵜呑みするなんて、馬鹿だ。でも彼を陥れるような彼女の言動は許すべきではない。絶対に許さない。


 

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