15.透ける衣替え。そして噂。
今日は慣れたとはいえ、憂うつな家庭教師の日。中3になってから、残念なことに、週2回に増えた。家庭教師は嫌いだ。ウマも合わない。だが、成績は上がっているのだから仕方がない。嫌いなやつの評価が上がるからまたこれも、やりきれない。
「じゃ、次、この問題をやって。終わったら声をかけて。なるべく20分以内でやって。」矢継ぎ早に家庭教師の高木が言う。やらなければ終わらない。だから指示に従い黙々とやる。
そういえば・・・と私はまたバンダカが浮かんだ。彼は25歳、そしてこの高木も25。中学生相手に、おまけに生徒に手なんて出せるのだろうか。高木が万が一、私をそういう対象に見ていたとしたら・・・?と想像しただけで、死にたくなる。
そもそも、リスクがあり過ぎる。
中学生の女子。未成年。おまけに生徒。親の目はもちろん、社会の目も厳しい。しかも半端な女。そんな女子に欲情するのか? もし欲情するならば気味が悪い。
別にバンダカのことは好きではない。が、それなりにバスケの実績もあり、生徒はもちろん親、とくに母親たちからも人気があり、新任教師として入ってきてすぐにバスケ部の顧問なった。笑顔が爽やかだの、バランスがとれた筋肉が良いだの、憧れだけでなく、番場崇に、異性を見る目で見ていた女たちは多数いた。
それも私は気持ちが悪かった。
自分の人気にあぐらをかいていたのか、だれかれ構わず、気軽に肩や頭に手をやるバンダカの手も気持ちが悪かったし、ときおり格好つけているように見える立ち姿も私は気持ちが悪かった。
そのうえ、舞妓と寝たというのが事実であれば、これ以上に気持ち悪いことはない。
「ねぇ、集中してる?」
高木の嫌味な声が耳に届く。
「20分以内といっているんだけど、その調子だと終わらない。」
「はい、すみません。もう少し時間がかかりそうです。」
「集中して、やって。ぼけっとしているヒマないから。」
とりあえず、本日の課題はクリアした。最初の問題には躓いたが、その後は必死に取り組んだかいあって、10分前に終えた。
「そういえば、君。番場先生に指導してもらっているそうだね。」
珍しく、問題以外の質問を家庭教師の高木がした。しかもタイムリーにもバンダカの話題。
「彼とは高校が同じなんだよ。プロになると思っていたんだけどね。」
そういえば、この家庭教師の高木。番場と同じく、偏差値の良い南西高校だった。南西高校はバスケのレベルも高い。だから番場は勉強よりもバスケの才能がプラスされて難関校を突破できたのだろう。
「体育でお世話になってます。バスケは顧問していますね。」
「そう。中学バスケの顧問ね。ま、大学でケガしたから行く先があって良かったというところか。」
相変わらずの皮肉めいた言葉。
嫌いな高木に、嫌いなバンダカの話しをされて、ますます気分が落ちた。
6月に入り、衣替えとなった。上着を脱ぐため、装いは半袖のシャツにリボン、スカートになる。シャツは薄いベージュだ。下着が見えないように大抵の女子はシャツの下にインナーを着用している。女生徒の中にはインナーを着用しない人もいる。色のついた下着を着用すると、色がわかるほど程度透けて見える
先日、健康診断の女性の結果表がなぜか男子生徒に漏れた。どうやって手に入れたのかわからないが、女生徒の胸囲の情報を得たらしい。
本当に馬鹿だ。胸囲なんて知ったところでバストサイズと直結しない。トップバストと、アンダーバストの差でカップ数が決まる。胸囲がどれほど大きい数値を叩き出しても、それは胸の大きさとは異なる。
「どうしてこうも、中学の男子は子供なのかな。ここまで精神年齢の差が出る?」
健康診断の情報が漏れたことはすぐに噂が広がった。
「今日はあいつは黒だったとか、ピンクだったとか下着の色の話しをしてたよ。」
美咲は自分の胸前で腕組みをし、胸を隠す。「くっだらない」と千里が一蹴する。
「でも、西村君たちはそんなことしないし、出回っている健康診断のデータも率先して処分してくれていたからね。全員の男子が馬鹿なんじゃないからね。」
と、美咲は西村の彼女らしくフォローすると、屋上で彼とお弁当食べる約束しているから!と、教室を出て行った。
「いいね~、美咲は平和だね。」
と美咲の背中を見送りながら千里が言う。
確かにそうだ。美咲と西村との付き合いはとても健全で、とても平和だった。本当に中学生らしいお付き合いだ。
手をつないで帰った記念日だとか、キスはどういうときにするのかな?など、いまだファーストキスのタイミングを考えている。とてもかわいい。
舞妓たちへのいじめはわかりやすい呼び出しから、少々手の込んだいじめに発展していた。教室に置いて置いた教科書類はすぐに無くなるので、荷物は置かないようにしたり、自転車はパンクさせられるため、特別に用務員室内に置いているらしい。
いじめる側も、熱量がないと続かない。中学生は無駄に体力があるので、いじめの手は中々緩まない。
「例の写真、先生方の連絡ツールで使われているメールボックスに貼り付けされたみたい。問題になってる。」
裕子が小声で言った。
「やっぱり、そうなったか。舞妓たちは馬鹿だから写真をだれかれかまわず見せていたんだろうね。自慢げに今、いじめられている連中たちにも過去に見せていたんじゃない?」
「そうみたい。」
「バンダカも馬鹿だけど、舞妓たちも相当馬鹿だわ。バンダカは首になるだろうし、舞妓たちも高校いけないんじゃないの?」
千里が弁当のミートボールを箸で刺し、口に運んだ。
千里は告白しないまでも、バンダカのことは純粋に好きだったはずだ。少なからず、落ち込んだだろうし、傷もついているはずだった。
「千里、大丈夫?」
私が言うと、
「大丈夫じゃないけど、大丈夫にするよ。今の私では何もできない。舞妓たちみたいな連中を、単なる中学生だとみくびっている大人が馬鹿。ああいう輩は子供扱いしていると足元をすくわれる」
千里の言葉通りだった。
中学生は社会的に子供だ。
けど、意外と冷静に大人たちを観察している。
「あのさ、まだぜんぜん噂の範囲なんだけど。」
と、千里が前置きした上で言った。
「舞妓たち、不二先生ともやったって言っているみたい。」
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