第86話 彩芽を助けたい!
川口から連絡を受けた彩芽は、指定した公園に向かった。もちろん、俺と美由は公園の影に隠れて待機する。
「彩芽、待ったか?」
「そんなことないよ。今来たところだよ」
「そうか、じゃあ。行くか!!」
いつも通りの行動だったのだろう。川口は彩芽の手を取ろうとした。彩芽はその手を振り払う。
「おい、どうした!?」
「わたしは用済みになったんだよね?」
「それは俺が決めることだ!! 彩芽、さあ行こう!!」
「ちょっと待って!! どこに行くの!?」
いつもと違う彩芽の態度に川口はかなり苛立っているように見えた。きっと美由に振られたことも影響してるのだろう。
「お前は、何も言わずにただ、ついてくればいいんだよ!!」
「美由ちゃんに振られたんだよね? それでわたしと寄りを戻したいわけだよね?」
「ふざけるな? そんなこと言ってると親父に言って漁業組合を潰すぞ!! データの捏造にどれくらいの金がかかってると思ってんだよ」
「嘘、だよね」
「何が嘘だよ」
「データの捏造なんてしてないよね。それどころか次の国会議員選挙に出て、太陽光推進派に回ろうとしてる」
「そんな嘘、誰に聞いたんだよ! そうか、幸人か、それとも美由か?」
「どちらにせよ、春樹はわたしに嘘をついてるよね」
その言葉に川口は顔を真っ赤にした。
「ふざけるな!!」
その瞬間、思い切り彩芽の身体を突き飛ばす。
「いいか、俺に楯突いたらな。こうなるんだぞ!! 分かったか!! 分かったら、行くぞ!!」
彩芽の手を握り無理やり、彩芽を連れて行こうとする。
「待ってよ!! どこに連れて行こうとするんだよ!!」
「ホテルに決まってるんだろ!! あそこでいつも可愛がってやってただろ。今度は傷心の俺を慰めろよ!!」
そう言って無理やり引っ張った。
「痛いよ!!」
「知るか!! お前が大人しくついて来ないからだぞ。俺はイライラしてるんだよ。ほら、ホテルに行って慰めろ!! なんなら中に出してもいいんだぜ!!」
「おい、もう止めた方が……」
「駄目だよ。ここで止めたら、犯罪が完全には成立しない」
「このままじゃ、彩芽が連れられてしまうじゃないか!」
「大丈夫だよ。ほら、幸人。わたしたちも先回りしましょ」
「……美由、お前どこに連れられるのか知ってるのか」
「彩芽ちゃんにいつも行ってるホテル聞いたからさ。そこに先回りしようよ」
「なぜ知ってるんだよ?」
「……幸人がトイレに立った時に教えてもらった」
俺はそれを聞いて思い切りため息をついた。焦ってたのは俺だけかよ。
「なら、先に言ってよね」
「ごめん!!」
俺たちは急ぎホテルに向かった。
「えと、なあ……ここ、本当に入るの」
そりゃ、俺も男だから、こう言う場所に興味がないわけじゃない。でもさ、俺たち、まだ……。
「わたしたち、今ここで何かするわけじゃないよね」
「それはそうだが……」
「わたしは、してもいいんだけどな」
「えっ!?」
「なんでもない」
美由は揶揄っていたのか、舌を出して、ニッコリと微笑んだ。
「そう言う冗談は心臓に悪いぞ」
「まあ、冗談でもないけどね」
「えっ!?」
「わたしたち、付き合ってるわけだし……」
そう言って顔を赤らめた。
「まあ、それはそうだが……」
「でも、ごめん。幸人、今日は駄目だよ」
「そりゃまあ、急すぎるよな」
「いや、……わたし、着物ひとりで着れない」
美由はそう言うと恥ずかしそうに顔を伏せる。可愛いやつだ。俺は美由の頭を優しく撫でてあげた。
「何にもしないよ」
「ありがとう。本当にごめんね」
いや、本当のところ現場押さえるだけだからな。
ホテルに入ると受付があり、御休憩とご宿泊というボタンがついているだけだった。俺は御休憩を押そうとした。
「ちょっと待って!!」
「どうしたんだ」
「ここで部屋を選んじゃうと川口が入った部屋と違う部屋になるよね」
「それはそうだが……あっ」
そこの影に隠れて様子を見ましょう。
「美由、どうするんだ?」
「まあ、いいからいいから……」
暫くすると川口に引っ張られて彩芽がやってきた。脅されてるんだろう。肩を抱かれたまま大人しくしている。
「ほらっ、行くぞ!! もう逃げんなよな!!」
きっと御休憩のボタンを押したのだろう。そのまま荒々しくカードキーを受け取り、エレベーターに乗った。それと入れ替わるように入口から、警察官ふたりが入ってくる。
「さっき、連絡を受けたのですが……」
えっ、なぜ、警察官ががいるんだ。
「わたしがパパにLINEを送って対応してもらったんだ」
「マジか……」
「凄いでしょう」
と言うことは、美由はこうなることを最初から予想していたのか。凄いってもんじゃないぞ。
「あー、ここに高校生が入って行ったと思うんだが……」
警察官は警察手帳を出して、出てきた店員に職務質問をしていた。高校生を入れてしまったと気づいた店員はかなり慌てているようだった。
「し、知らなかったんです……高校生って……」
言い訳なのは分かってる。ここのホテルのチェックが甘いのは、中学生の俺でも知っていた。
「とりあえず、部屋まで案内してもらえますか?」
「はい、405号室になります。案内いたします……」
店員は震える手でエレベーターのボタンを押した。
「なあ、やっぱり俺って、頼りないか?」
「えっ、どうして?」
「だって、俺に竹刀があれば負けないって言ったの美由だろ。だから、これを……」
俺は近くにあった檜の棒を手に持っていた。竹刀ほど長くはないが、素人相手にはこれで充分だ。
「怪我をしたと言って慰謝料請求されても困るでしょ」
「でも、さっきは……」
「本当はカッコいいとこ見たかったんだけどなあ。そうパパにLINEしたら、怒られちゃった」
そう言うことか。ただ、これで川口の罪は動かし難いものになるはずだ。
俺達は警察官と共にエレベーターに乗った。
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