第85話 甲乙つけ難し

「ごめん、やっぱりあなたと付き合えないよ」


「なぜだよ! 最初、俺が声をかけたら、ついてきただろ!!」


「気が変わったんだよ!」


「そんな、何がダメだったんだよ!! 充分優しくしたし、そうだ。なら、暫くはプラトニックでもいい」


「ごめん。無理……」


 明らかに美由に断られた川口の顔がいびつに歪んだ。


「もしかして、幸人か……、あいつに脅されたのか?」


「別に脅されてなんかないよ」


「じゃあ、何だよ! 俺の方が顔もいいし、金持ちだし……」


「ごめん。わたしはそんなことで好きな人を選んだりしないんよ」


「じゃあ、なぜ、俺の誘いに乗ったんだよ! さっきは幸人とデート中だったよな!!」


「で、幸人からわたしを奪い取って、川口さんあなたは満足したの?」


「違う。美由ちゃんは俺のこと勘違いしてるよ」


 川口は美由の手を取ろうとして避けられた。何が起きてるのか分からないのだろう。イライラしているのが、ハッキリと分かる。きっと、もう少しうまくやればホテルに誘うことも可能と思ってたんだろう。


「勘違いなんかしてないよ。川口くん、彩芽ちゃん脅してたでしょ。そんな人と付き合えないよ」


 この言葉に川口は明らかな怒りを露わにした。


「彩芽がそう言ったのか?」


 その声は小さかったが、強い怒りが篭っていた。


「そうだよ。付き合うのは辞めといた方がいいって言われたよ」


「くそおおおっ、彩芽の分際で、何を言ってるんだ!」


「だから、ごめんね。行くよ!」


 美由はそう言うと川口から離れた。それにしても、川口はこれまで彩芽に何をして来たんだよ! 


「彩芽……、俺の奴隷の分際で、こんなことしていいと思ってるのかよ」


 その言葉は誰に向けられたものでもなく、川口自身の心の声だったのだろう。


 俺は少しして、その場を離れ、喫茶店で待ち合わせしてる彩芽の元に向かった。


「あっ、来た来た」


 俺を見ると彩芽はニッコリと微笑んだ。


「かなり怒っていたと思うから、きっと川口はお前を探してると思う!」


「じゃあ、わたしの出番だね」


「すぐに行くよりも、美由が来るのを待って対策した方がいいよ」


 俺が彩芽の前に座ってすぐに美由が喫茶店に入って来た。


「大丈夫だったか?」


「怖かったよっ!」


 美由は俺の隣に座ると俺に抱きついて来た。いや、だから、やばいって……。


「川口ったらね。わたしに抱きついて来て……」


「抱きつかれてない……」


「それでね、わたしのスカートに手を入れた挙句……」


「入れてない」


「わたしの股間に……」


「揉まれてない……」


 俺が美由の言っていることを全て否定すると美由は口を尖らせた。


「ちえっ、つまんない」


 美由はそう言って目の前のオレンジジュースのストローに口をつける。それ、俺のだけどな。


「俺、何かあったらいつでも飛び出せるように隠れてただろ」


「そうなんだけどね……」


「じゃあ、川口が切れたのは事実だけど、何もされてないの分かってるだろ」


「だからさ、幸人は大変だったねって、そのまま、キスしてくれたらいいんだよ。幸人は何もされてないと思ってても、わたしにとっては、蹂躙されたくらいの衝撃だったんだよ」


「そうか、じゃあ何して欲しい」


 美由はその言葉を聞くと、嬉しそうに抱きつく腕に力を入れた。


「えらいえらい、して欲しい」


「分かった、分かった。じゃあ……」


 俺は片手を美由の頭にのせた。


「えらいえらい」


「……頑張ったんだからね」


 美由は髪の毛が乱れるのも構わずに嬉しそうにされるがままにしていた。


 店内には俺たち以外いないので、良いんだけれど、これ普通のお客さんがいたら結構まずいと思うけどな。


「いつも、そんなことされてるの?」


「ああ、美由は頭を撫でられるのが好きなんだよ」


「珍しいね。女の子って結構頭撫でるの嫌がる娘多いんだけどね」


「それは幸人だからだよ。他の人なら、触られるのも嫌だからね。幸人なら……その何されてもいいよ。わたしの身体は幸人のモノなんだから……」


「うわっ、エッチい。その言葉、やばいよ」


「やばくてもいいんだ。何されても心の準備はできてるんだからね。そりゃ、まだ子供とか生まれちゃったら、まずいから……その生だとまずいけど……」


 美由、どさくさ紛れに何を言ってるんだよ。俺たち、まだ清い交際だよな!


「そうだ! 彩芽ちゃんも幸人のそばにおいでよ。ぎゅっとされると癒されるかも」


「えっ! いいの?」


 ちょい待ち。美由はそれでいいのか。


「うん! これから大変な仕事が待ってるんだからさ。癒してもらう必要あると思う」


 じゃあ、と彩芽が隣の席に来て、俺に悩ましげな目で見つめて来た。いや、それ不味くね?


「ほら、片手開けてあげたから、どうぞ」


 いや、どうぞじゃ……。


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 彩芽が俺に抱きついたため、俺は両手に花と言う状況になった。右に着物姿の美由。左にミニスカートが眩しい彩芽。


 俺は右に座る美由の胸をチラッと見て、左に座る彩芽の胸を見る。


「触って比べてみる?」


「……倫理的に問題ないか?」


「幸人なら大丈夫だよ!」


 美由と彩芽は2人声を揃えて言った。まあ、二人がいいのなら……。


 右の胸は柔らかくボリュームがあるが強く揉むと反発する。なかなかの弾力だ。左の胸は小ぶりではあるものの、手のひらサイズでちょうど手にフィットする。


 なかなか甲乙つけ難い。


「なんか、幸人エッチな顔してる!」


「本当だよ! 鼻の下伸ばしてるよね」


 それにこう二人に近づかれると女の子のいい匂いで、くらくらしてくる。どうして、女の子ってこんないい匂いしてるんだよ。


「何して欲しい?」


 二人声を揃えてそう言ってくる。


「いや、……喫茶店でやったら追い出される」


「追い出されるようなこと想像したの?」


 美由と彩芽は首を傾げて、正面からこっちを見つめてくる。唇が少し開いてかなりえっちぃ。


「いや、……まあ……否定はしないがな……」


「じゃあ、川口追い込んだら、二人でご褒美しないとね」


「それはどっちに対するご褒美だ?」


「お互へのご褒美だよ!」


「美由は彩芽にもすることになるけど、良いのか?」


「もちろんだよ! わたしと彩芽ちゃんは二人とも幸人のこと大好きだから、問題ないよ!」


 そうか? なんか違う気もするが……、美由がいいのなら、いいのか???

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